8月11日 2010年夏祭りバトル!(第1試合 ダーク&クラウド VS ローラン&ラーラ)  編集:Rista


 夏真っ盛り、8月。
 カフェ「パーティ」は毎年恒例となった夏祭りを一週間にわたって行い、今年も大変盛り上がった。

 今年の夜は模擬店とライブが大変な盛況。
 しかしそのどちらもが行われない昼間の島で、もう一つのイベントが行われていたのである。



琴牙「よーっし、がんばるぞ!!!」

 意気揚々と広場にやってきたのは、一部では本当に人間なのかとも噂されるポケモンブリーダーの琴牙。言わずと知れた獣ポケモン好き、もふもふ中毒者である。

零「(MBを二つ、ベルトから取り外した)…エヴァから渡されたこれ(MB)、何気なく便利だよね(とか呟きつつ定位置へ)」

 こちらは草ポケモンをこよなく愛することで知られる零。彼が暮らす世界ではまだモンスターボールがそれほど普及していないそうで、双子の弟エヴァンスから譲られるまでは 1個も持っていなかったとか。
 そんな2人が本日の対戦者である。そして、

朱月「……うん、地面の調子は悪くないね。」

 半透明の人間が突然フィールドの真ん中に現れた。すぐさま白線の外側に下がりつつ、同じ広場で夜に営業する屋台をさりげなく神通力で一時避難させているのは朱月、昼間にも平気で出現する自称幽霊である。
 さて、2人のトレーナーがそれぞれの立ち位置についたようだ。

琴牙「(零と向かいの定位置について)よっし、でてこい!!」
 まず琴牙がモンスターボールをふたつ、アンダースローで投げる。
クラウド「…かったりぃな…。」
ダーク「クラウドさん、そんなこといわないで…。」
 中から出てきたのはチルタリス♂のクラウドとブラッキー♀のダーク。琴牙がこの試合のために厳選した2匹だ。

零「ダブルバトル、時間の目安は一時間。審判は朱月…と、明日葉。OK?」
 続いて零が琴牙に確認を求めてから、くるくると指先で回していたモンスターボールを上空へ投げた。
ラーラ「うぃ、むしゅー」
ローラン「………(欠伸()」
 ボールカプセルをセットしていたらしい、美しい花弁を舞い上げて現れたのはラフレシア♂のローランとキレイハナ♀のラーラ。零と苦楽を共にした双子の兄妹だ。

明日葉「かしこまりました。(金時計を出し、11:30と確認して)」
朱月「対戦相手は出そろったみたいだね。先攻はどちらから?(両者を交互に見て)」
 零と一緒にやってきた執事兼家庭教師の明日葉が丁寧な所作で時計を確認し、朱月は2人の発言に注目する。
琴牙「(零をみて)んじゃ、先行をもらっていいですか?」
零「Oui、どうぞ」
朱月「決まりだね。」
 試合条件はすんなり決まった。朱月は一つうなずいて、フィールド横の中央、両トレーナーとちょうど同じ距離になるような位置を取る。
 ラーラがローランの一歩前に出て、前を睨んだ。
 クラウドとダークも、いつでも動ける体勢を取っている。


朱月「行くよー。……試合開始っ!(びしっ、と手を挙げた!)」


琴牙「それじゃいくよ! クラウド、ダーク!!スターファイア!!」
 先攻の琴牙が早速指示を出す。口にした名前は自ら命名したオリジナル技だ。
 クラウドの上にダークが飛び乗り、クラウドが火炎放射を、ダークがスピードスターを同時に放つ。
 二つが交わり光り輝く黄金の炎が相手の2匹に向かう!! うおっ、まぶしっ!

零「ラーラ、守る!」
 後攻の零も負けてはいない。
 即座の判断に応え、ラーラがローランの前で両手を前にかざす。現れた緑色のシールドがスターファイアから見事に2匹を守った!
ローラン「…命中率100%の技に乗せての火炎放射か、厄介だな(と呟きつつ空を見上げ)」
 スターファイアを一通り防ぎきり、攻撃が収まるとすぐさまローランはラーラの背後から飛び出した。地面を蹴り上げ、大きな花びらを揺らし、クラウドに向かう。

琴牙「クラウド、弾け!!」
クラウド「わぁってるさぁ!!」
 ローランが射程距離内に入った瞬間、クラウドが神秘の守りを発動。
 2匹が淡い光に包まれる。「まもる」ほどの強度はないが、向かってくるローランを受け止める壁のような構えだ。

零「…そう来るだろうと思ったんだ(と呟き、口端を上げた。空を仰ぎ、目を閉じて)ラーラ、日本晴れ!」
 トレーナーの手前に残っていたラーラが今度は両手を上にかざす。
 すると太陽の周りの雲が一気に退いた。日差しが強くなった――そう、日本晴れだ。

琴牙「続いて悪の波動!!」
ダーク「せーの!!」
 額の模様が輝き、そこから黒い波導を発射!
 同時にクラウドが神秘の守りを解除し、波動は包んでいた光の残滓を吹き飛ばしながら広がっていく!

 しかしその間にローランはクラウドの背後に回り込んでいた。
 特性:葉緑素。
 降り注いだ日差しを浴びたことでスピードが一気に増し、神秘の守りの壁に触れることなく、トレーナーもポケモンも反応しきれない位置への移動を可能としたのである。そして悪の波動を突き抜ける勢いで背中のダークに向けて拳を振り下ろす、ドレインパンチ!

ダーク「うわっ!;(命中。だがブラッキーとしての耐久力の高さから耐え抜いた!!)」
 さすがにこれはよけられない。だがまだ初手、余裕がある。
 そしてトレーナーはもっと冷静だった。
琴牙「クラウド、上昇!!」
クラウド「っしゃあ!(バヒュン、と空へ舞い上がった)」
琴牙「日差しが強いの、利用させてもらうよ!! 月の光!!」
 空高く舞い上がったクラウドの背の上で、ダークの身体の光輪が輝き、日の光をいっぱいに浴びてじっくりと回復していく。
 技名とは明らかに違う光景だが、効果は一緒なのだ。

零「…日の光で月の光の回復量が増すのって、いつも不思議に思うんだよね(何て小言を漏らしつつ、地面に着地したローランへ)相手が空なら空からの攻撃だ。ローラン、ソーラービーム!」
ローラン「Oui.」
 指示を受けたローランが構えた。
 刹那、ダークへ体力を提供していた太陽から、今度はローランに向かって太陽光線が突き抜けてくる。クラウドとダークが光線の軌道に入るタイミングで技を放ったのだった。
 その間にラーラはローランの横に駆け寄った。ちなみに彼女も同じく葉緑素が発動している。

琴牙「クラウド、ロール!!」
クラウド「しっかりつかまっときな!!」
 ソーラービームが降ってきた瞬間、クラウドは琴牙の指示に見事に対応した。ダークを乗せたまま右へときりもみ飛行をして回避。そしてここで、
琴牙「ダーク、星のカーテン!!」
ダーク「クラウドさん!!」
 ローランとラーラの頭上を旋回したクラウドの背中から、ここでダークが尻尾から大量のスピードスターを降らせた。
 そのさまはまさにカーテン。
 上空の2匹はもちろん、定位置に立つ零たちや審判の2人からも、ローランとラーラの姿が隠れてしまった!

零「な、んだ…?(見えなくなった二匹の姿に一瞬戸惑うが、深呼吸を一つ、整えて)…ローラン、ラーラ、舞え!」
ローラン&ラーラ「Oui, monsieur!」
 姿は見えなくても声は届いていた。
 ローランとラーラが星のカーテンの中で手を繋ぎ、ダンスのように回り始める。それと同時にローランから花弁の舞、ラーラからマジカルリーフが放たれ、星のカーテンを散り散りに吹き飛ばした!

 ……が、そのとき既に、空からクラウドたちの姿が消えていた。
 そこにはただ、広場全体の気温を少し押し上げるほどの熱気が漂っている。

零「…、?(辺りを見回す。気温が上がったことを微かに感じ取り、嫌な予感がした)…ローラン、花弁の舞をそのまま纏っておいて。ラーラは準備(そう指示し、目を凝らす)」

 零が気を引き締めたその瞬間。
 強かった日差しが一瞬でかき消され、広場一帯が真夜中のように暗くなった!
 見上げれば空には黒い球体、そしてそれを縁取る円環型の光――察しがいい人ならもうお分かりだろう。大きな影が太陽の光をさえぎっていたのだ。

琴牙「葉緑素封じ!!」
 ここまで作戦として組み立てていたらしい琴牙が快哉を叫び、
朱月「うわあ、日食だ。(どんな仕掛けなんだろう、と傍らに鬼火を灯しながら上空を見上げて)凄く高いとこに上がったなー。」
 審判役の一人は自分の手元にだけ明かりを作りながらのんきに感想を述べた。
 暗闇の中にそこだけがぼうっと照らされる。見る人によっては卒倒しそうな光景(…

零「何っ…(何だあれ、と空を見上げた。シャドーボールか否か思考するが、それどころではない)不味いな…ラーラ、マジカルリーフで敵の位置を割り出せ」
ラーラ「う、うん(両手を大きく広げて一回転、マジカルリーフを放つ。敵を追跡するという能力のあるそれで、クラウド達の位置を引き出そうと)」
ローラン「…ん(そのマジカルリーフに花弁の舞を混ぜた。あわよくば一緒に命中すればいいな、くらいの気持ちで。混乱防止にキーの実をもぐもぐ)」

 敵を追跡する効果を持つマジカルリーフが向かった先は、問題の球体。
 擬似コロナにより見えにくいが、その球体は……
琴牙「あれはダークがサイコキネシスと悪の波導を纏って作り上げた日食用の月!!そして…!!」
 球体の背後から現れ、マジカルリーフを迎え撃ちながら飛んできたのは……炎の鳥!
琴牙「いけ、クラウド!!太陽の力をいっぱいにうけて羽ばたけ!!フェニックス!!」
クラウド「おおおおおおお!!
 巨大な炎の鳥、それは神秘の守りと火炎放射で体をコーティングしたクラウドであった!
 向かう先はもちろん、ローランとラーラ。トレーナーでさえ額に汗がにじむ熱気の中、葉緑素の切れた2匹を一応打尽にしようと向かってくる……!

零「ッ…ラーラ!」
 呼ばれたラーラ、反射的に「まもる」を発動。
 さすがにクラウドの勢いに最後まで耐え切ることはできず、シールドが破られラーラは後方に吹っ飛んだ。しかしその壁はローランが横へ逃げる猶予を充分に確保していた。
ラーラ「っ、…(零の前に転がった。体力は取り敢えず、少しは残っているようだが)」
 妹が作ったチャンスをローランは逃がさない。
 横に避けるついでに、突進してきたクラウドに向かって何かを放った。緑色の粉――眠り粉!

 しかしクラウドもただの突進ではない。
 ぼわあああ、と一帯に炎を撒き散らし、熱風の追撃を2匹に加えてくる。
琴牙「(そして眠り粉をみる。だが残念と一言呟いた)フェニックスは自身にもダメージが及ぶけど、クラウドは神秘の守りでコーティングしてあるんだ!!」
 神秘の守り、それは状態異常にかからなくなるというもの。本来の効果もきちんと計算に入れてあったのである。

 ところが……眠り粉と熱風が衝突した瞬間、盛大な爆発が発生。クラウドが軽く吹っ飛ばされた!
琴牙「…ってわっ!;」
クラウド「っつぅ;(バッサバッサと羽ばたいて、体勢を立て直す)」
 どうやら粉塵爆発は計算外だったらしい。
琴牙「だけど…押し切れ!! ダーク!!」
ダーク「はい!!」
 勝負を畳み掛けるのか、上空で忘れ去られそうだった球体が膨張していく!
 次のターンに何を仕掛けてくるのか……?

 一方こちらは計算外に救われた形となった零。だが表情は厳しい。
零「結果オーライ、かな(吹っ飛ばされたクラウドを見てそう呟いた後、膨張する球体を見て咄嗟に悟ったのは次のターンに悪の波動が来るということ。だが避ける術もラーラの「まもる」の発動体力もないので、小さく舌打ちをしてから)最後、こっちも畳み掛けるよ。ローラン、ラーラ!」
ローラン「(ラーラの傍に駆け寄り、彼女の身体を支えて起き上がらせた。球体、そしてクラウドを交互に見遣り)…諦めるな」
ラーラ「う、うん(小さく頷き、両手を前に広げて)」
 立ち上がる2匹。双子の絆が今こそ試される!

琴牙「いくよ、ダーク。太陽を月へと換え、降り注ぐ雨を生み出せ!! 流星群!!」
ダーク「ヤァッ!!
 気合いの入った声とともに球体が爆発。そこから黒い星々が何千と降り注ぐ!
 その正体は悪の波導とスピードスターを混ぜたもの。ドラゴンタイプの同名技とは効果も見た目もタイプも異なるが、それはまさに黒い流れ星と呼ぶにふさわしい壮観なものだった。
 さらに、
琴牙「イッケェ、クラウド!!
クラウド「追撃ダァ!!(ボウッと口から竜の波動!! 上から、そして前からの二方向攻撃だ!!)」
 こちらは本当にドラゴン技。上からの流星に加え、2匹の正面からは青い炎が攻めてくる。

零「双子の君達なら通じ合える。…ラーラ、守るをローランに受け渡せ!」
ラーラ「はいっ!(体力ギリギリ、緑のシールドを展開した。そしてローランと手を繋いで目を閉じる)」
 違う進化を選んだとはいえ、元は同じ種族の双子である。
 一言の指示は正確に2匹へ伝わった。寄り添った2匹は手をつないで……
ローラン「…(ラーラと共に目を開いた時、シールドは既にローランを基軸に展開していた。そのままラーラの一歩前に出て)」
零「舞え!!
 号令一下、ローランは守るシールドを展開したまま一回転。
 自身の八方に桃色の花弁を舞い散らせ、流星群と竜の波動を同時に相殺していく!
 ボム、ボム、と小さな爆発が何度も発生し、フィールド一帯が煙に包まれ……
琴牙「どうだ…!!?」

 琴牙は息を呑み、
 朱月は爆発の中心をじっと見つめ、
 明日葉は黙って見ていて、
 零は……

ラーラ「きゃっ…!(ローランの後方、爆風に吹き飛ばされて零の腕の中へ飛び込んできた。衝撃で体力を削られたのだろう、目をくるくる回した状態で)」

ローラン「(こちら前方、守るシールドのお陰でかろうじて体力は残っているようだが、片膝をついた。ぎっとクラウドとダークを睨み上げ、歯ぎしり)」

零「…Merci, ローラン、ラーラ(そんな二匹を見遣り、肩を竦めた。それから小さく微笑み、琴牙を見遣って)参ったよ、僕の負けだ。ローラン、戻りなさい」

 ラーラを受け止めた零が、静かにローランへ告げた。

朱月「……戦闘不能、だね。」
 取り出していた懐中時計を懐へ戻した幽霊が、琴牙のポケモンたちの状態も念のため確認する。
ダーク「はぁ…はぁ…;」
 ぜぇぜぇと息をしているダーク。大技を維持し続けた疲労が出たのだろう、ぺたん、と横に倒れた。
琴牙「うわったった…。(ダークの様子をみて、そして零をみて)あ、…はいw(有難うございました!と一礼してからクラウドとダークのところへ)」
 クラウドは既に地面に降り立っていた。フェニックスのせいなのか、羽毛のところどころが焦げているが、まだ意識はあるようだ。
朱月「確定だね。……この勝負、琴牙君の勝ち。」

 幽霊が静かに片手を上げ、琴牙の方へ傾けた。


 こうしてバトル大会の初戦を飾る試合は無事に終わったのである。