8月14日 2010年夏祭りバトル!(第5試合 スプリット VS サーリグ)  編集:Rista


 夏祭り終了まであと2日。
 ヒイラギと零による白熱した対戦の半日前、昼間のカフェで、もう一つの試合がひそかに行われていた。

 実はカフェが建てられた当時から、周辺にはバトルや乱闘を想定した広めのフリースペースを用意してあり、以前はここで夏祭りの模擬店が開かれたこともある。
 最近はカフェよりも森の方で騒動が起きることが多く、また何よりバトル自体の数が減ったこともあって、ここが使われることもほとんどなかったという。だがカフェの清掃係ティンさんによる手入れには一切の無駄がなく、フィールドはいつでも万全のコンディションに整えられていた。


スプリット「……ふふっ、それじゃぁ、30分でいい?」
 店の出入り口にギターと麦藁帽子を置いて外へ出てきたのは、小柄なバクフーンのスプリット。いつでも準備万端といった様子だ。
 勝負を提案し、「広場に移動するのが面倒だから」という理由でこの場所を勝負の場を選んだのは彼である。
 最終日のライブを翌日に控えているというのに余裕すら感じさせるのは、ライブ関連イベントに必ずといっていいほど出演しているベテランの貫禄だろうか?

サーリグ「構わない。」
 一方、スプリットの呼びかけに答えた人物は、人によっては意外に感じるかもしれない。
 S氏ことサーリグ。以前は人の姿を取ることが多かったが、今回はバシャーモの姿での登場である。こちらは元々持ち物がないので置く必要もなく、両足のかかとを軽く浮かせ、いつでも動ける体勢をすぐに作ってみせた。
 何故バトルに応じたのか、何故気合い入ってるように見えるのかは……今のところ謎のままとなっている。


スプリット「それじゃぁ、失礼して……」
 こくり、と頷けばサーリグに威嚇程度に火炎放射!
 放つと同時に四足に移行して、普段の彼とは思いがたいスピードで走り始める!

 立会人も審判もない、先攻後攻の選択もない。観客は店員たちと、パフェをほおばる幼いポケモンが2匹だけ。
 ただシンプルに、明白に、バトルは始まった。

サーリグ「……。」
 対するサーリグも火炎放射の熱を片手で軽くなぎ払うようにして、すっと姿勢を低くする。走り出したスプリットの足音を、乱れる空気の流れを感じ取り、仕掛けてくる彼の動きを見極めようとしているようだ。
 そして次の刹那。
 スプリットは動き回りながらも、一直線にサーリグへと襲い掛かってきた!
スプリット「(右手に炎を宿らせるほのおのパンチを彼の腹へとすれ違い際にお見舞いしようと!)ハッ!」
サーリグ「……ふむ。」
 サーリグは懐へ飛び込んできたスプリットの拳を腹に受ける。
 体を若干曲げ、そのまますれ違う彼の身体へ、ブレイズキックを膝蹴りの形で打ち込む!
スプリット「うげ……!?(腹を蹴られ、苦痛に表情を歪ませながら至近距離で彼へと火炎放射を放ち!)オォォッ!;」

 吹き上がった火炎で一気に気温が上がり、ゴオッ、と空気がうなる。
 火炎放射はサーリグの正面へまともに浴びせられ、羽毛を軽く焦がしたが、彼もまた炎タイプ。効果は薄いらしい。

 そして彼は反撃に転じた。表情一つ変えず、炎を裂くように振り上げた拳が火花を帯びると、雷パンチとしてスプリットへ振り下ろされた!
スプリット「う、ぐ……!;」
 攻撃を受けたスプリットは吹っ飛ばされた!
 小柄な体は素早い動きを可能にするが、その代わり、重い衝撃を受ければ軽さの分だけ遠くへ飛ばされてしまう。地面を転がってからすぐに立ち上がったスプリットだったが、その呼吸は乱れていた。
スプリット「はぁ、はぁ……!(」

 荒い息を吐きながら、ここまで先手を取って仕掛けていたスプリットが一旦動きを止める。
 サーリグはというと、先ほどのパンチで殴られた腹を片手で軽く払いながらスプリットを見下ろした。何も語らず、口元から軽く火の粉を吐いてみせる。
スプリット「余裕綽々だね、サーリグ……」
 息を乱しながら、彼へと呟いて……ぐ、と拳を握り、相手を見据える。

サーリグ「動けないようだな?」
 口数の少ないサーリグがようやく口を開いた。
 直後、軽く地面を蹴り、その跳躍力だけでスプリットへ接近。正面から攻めるかと思いきや、もう一歩進んで彼の真横へ跳んだ。
スプリット「……へへ、まぁね。」
 正面から反撃すれば空を切るはずのフェイント攻撃に、スプリットは見事についてきた。
 横に飛んだサーリグに対応して身体の正面を向け、飛び込んで行くと、彼の首元に噛み付いてきた!

サーリグ「成る程。……動きは良い。」
 自分の首に迫る牙を見下ろす、その表情が少しだけ険しいものに変わった。
 呟きながら拳を握り直す。しかし殴りには行かず、帯びた雷だけがスプリットの体を撫でるように手をスライドさせた。
 すると……
スプリット「う、ぁ……っ!;」
 雷が身体を走り、牙はサーリグへと届かずに倒れた!
サーリグ「……だが、まだ甘い。」
 一方こちらは倒れたスプリットを厳しい目で見下ろした。
 決してノーダメージではないのだが、こちらは足がふらつく様子すらない。


 勝敗を問うべき審判がいなくても、結果は明白だった。
 ……まさかのワンサイドゲームである(



 ここで店内奥にある“スタッフ専用”の扉が開き、長期不在のオーナーに代わって打ち合わせに来ていたアルビレオが、チェルク店長と一緒に出てきた。
 ふたりが見たのは、窓の外を夢中になって見つめる2匹のポケモンと食べかけのパフェ。
 そして試合終了の瞬間だった。

アルビレオ「……何やってるんですか……?;」
 いろんな意味のこもった冷や汗が頬を伝う。
 彼が外に出てみると……

スプリット「ちっくしょー、覚えてろよっ!;(><。()」
 小柄なバクフーンが泣きながら霧へ向けて逃げていくところだった!(

アルビレオ「……あ、お疲れ様です…………」
 逃げ帰ったスプリットを見送るが、素早すぎる動きに呼び止めることすらかなわなかったのだった。


 余談だが、この後まさに余裕綽々の表情で店内へ戻ってきたサーリグへ、店員たちから事情を聞いたアルビレオは「大人げない勝ち方して!」などと叱ったとか。



※このバトルで「無茶しやがって……」という票を多く集めたスプリットが敢闘賞を受賞しました。