11月20日 黄金王妃の花嫁修業  編集:ロイシェ


黄金王妃(砂浜でピチッてる。)
黄金王妃(ピチピチ ぴちぴち 姫がピチピチ 姫がピーチ ピーチひmげふげふ。)「コッコココココッコココッコココッ!」

静かな入り江で黄金のコイキング(♀)が跳ねていた。
そこに何も知らない青年が一人、訪れる。

フィアロウ「……。」(ぴちぴちしているのが見えて知らないふりをした方がいいのか悪いのか分らない顔をしている。)
黄金王妃(ぴち、ぴち……) 「ココッコ……コココ……、……コ……。」(でろん。 )
フィアロウ「……。」(さくさくさくさく、と黄金王妃の元へと歩いていく、)「……。」(ただの色違いコイキングに見える。)
黄金王妃(ぱくぱく。) 「……く……。 」
フィアロウ「……。」(黄金王妃を覗き込んで、木の棒で突っつこうとする。つんつん。)
黄金王妃(つんつん。 ギョロ。フィアロウを凝視する魚の目。)
フィアロウ「……。」(ギョロ。と凝視する目を見てごそごそと大きな袋を取り出し始める。)
フィアロウ「これでトキワのガキも冬を越せるかなぁ。」
黄金王妃「……今 なんと? 」
フィアロウ「寒くて震えている小鳥たちがいるんだよ。 」
黄金王妃「それはまた、可哀相に……その袋に包めて、暖めて差し上げるのですね? あぁ、なんと動物思いの優しき青年。」(ぱくぱく。 )
フィアロウ「……ちょっと待ってくれ。言い回しがどうも貴人が庶民に言うようなものに聞こえるんだが。お前誰だ。」
黄金王妃「私、新生コイキング公国の黄金王妃と申します。此度は最強である夫、王に見合う王妃となるため、花嫁修業としてこちらに参った次第ですのよ。ホホホホ。」(ぱくぱく。)
フィアロウ「なるほど。」(袋を広げて、黄金王妃を見て)
フィアロウ「あったかいものを恵んでくれると助かる。って思ったけど花嫁修業か。」
黄金王妃「……それは、それは、でも私が一体どんな暖かいものを与えられると思ったのですか? 」
フィアロウ「え、金とか。」(懐的な何か。)「なんでここに打ち上げられてんの?花嫁修業として浜辺で体焼くのか? 」
黄金王妃「あらやだ現金主義。 打ち上げられてた? ……あぁ、修行の事ですね。私達コイキング王族に代々伝わる秘術の修行の一環として、1日1万跳しなければなりませんの。ここは修行場として申し分ない場所ですわ。」(ビタンビタン。 )
フィアロウ「じゃあパンをくれ。 ……って思ったけど食われてそうな気がするしやめる。……一万跳……だと……そこまでしないと王に見合う王妃にならんというのか……。」
黄金王妃「パンでよろしいのね。」(ピチ、ピチ、身体の向きを海に。)「それに速度も重要ですね。王は1秒で1000跳できるのですが、私はまだまだ……1秒に800跳程度ですわ。 」
フィアロウ「できるのか?」(体の向きを変えた黄金王妃に聞くが、)「…………色々な世界の話を聞いたが今の話が一番度を超えている。」
黄金王妃「鯉王術に不可能などありません……、」
黄金王妃「―― 鯉 王 の 勅 命 ――」(ひとたび跳ね、大地が震える。再び跳ね、風が慄く。みたび跳ね、突風が森に吹いて……鎮まった。)
黄金王妃「……でしょうね。ふつうのコイキングでは、良くて1秒4跳程度ですから。」(ピチッ )
フィアロウ(一つ跳ねて辺りを見回し、二つ跳ねて袋がはためき、三つ跳ねて帽子が森に吹っ飛んで鎮まった。)
フィアロウ「なあ、何やったの?さっき何やったの?」(動揺)
黄金王妃「今のが鯉王術のひとつ……700跳を超えないと会得できない、王族にのみ許された『はねる』です。400跳で突風が発生し、残りの300跳で風の進むルートを補正する高等テクニック! ……コホン。 風にものを頼めるようになるのです。 」
フィアロウ (゚Д゚)(こんな顔になっている。開いた口がふさがらない。)
フィアロウ「跳ねるだけでパンが飛んでくるのか!?」
黄金王妃「風は森で木の実を集め、霧を通り、街のパン屋に代金として木の実を残し、パンを……持ち返る。」(すとん。王妃の傍に、食パンの入った袋が落ちてきた。 )

ゴースト「ケケッ」

フィアロウ「恐れをなして逃げたわけじゃないぞ俺は!」(ぶんぶんと袋でゴーストを追い払いつつ)
黄金王妃「―― 鯉 王 の 裁 き ――」(ゴースト達が天に舞う。 落ちた食パンをそっと尾で押して、)
黄金王妃「さあどうぞ。」
フィアロウ「しかし、跳ねるだけでできるとは……あ、あれ? 」
フィアロウ 「…………。」(ゴースト達が舞っている。こんな時どんな顔をしたらいいかわからないの。促されて食パンの入った袋をもらう。)
フィアロウ「……ありがとう。今からあげてくる。」(すっくと立ち上がる。)
黄金王妃「きっと小鳥達も喜ぶことでしょう。一口サイズにちぎって差し上げてください。くれぐれも喉に詰まらせないように……!」(ピチ。)
フィアロウ「おう。お前も花嫁修業がんばれよ。こっそり応援してるぜ。」(袋を担いで霧へと歩いていく。その道すがらとんだ帽子をかぶり直し、その場を去って行った。)
黄金王妃「……そうですわね、頑張りましょう。」
黄金王妃「―― 鯉 王 の 帰 還 ――」(瞬間的加速。一瞬でジェット機の速度に達し、彼女は海を割って彼方に消えた。 海はすぐ元に戻った。)


(記録日:2012/11/20 静かな入り江)