2019年3月16日 【未来の使者】パンドラの箱についての始まりの始まりのお話  編集:ロイシェ

3月16日、広場にて。
セレビィのサシノとダンクマールが霧を越えてやってきて、なにやら準備を始めていた。

ダンクマール(とりあえずカバンからノートパソコンとモバイルプリンタとコピー用紙を取り出した。ノートパソコンの電源を入れると、word を立ち上げてモバイルプリンターを有線で接続した)
サシノ 「充電バッチリ? 」(と画面を覗き込んだ)
ダンクマール「100% になってるから心配なし。君こそ、準備はできてるのかな」
サシノ 「心以外は」
ダンクマール(ちょっと驚いて目を見開いた。そのまま右手を伸ばすとサシノの頭を撫でた)
サシノ 「励ましてくれてる?」
ダンクマール「そりゃね。俺も初めてのピアノの発表会のとき、母にこうしてもらったよ」
サシノ 「ちょっと元気出てきたかも…」(と、頭の上に置かれたダンクマール の手に自分の手を重ねた)

サシノ 「うん、もう大丈夫 」(と自分の手を退けると、にこ、と微笑んだ)
ダンクマール 「よかった 」(と安心した笑みを浮かべると)「 じゃあ心の準備はもう万全ってことで 」(と、笑顔を浮かべると)

そうして集まってきた面々への説明が始まった。

ダンクマール 「例のパンドラの箱についてちょっとこのセレビィがお話ししたいっていうから、それでちょっとちょっと今日、この場を借りてお話会をする予定なんだ」 (と、そろそろ揃ったしいいかな? とパソコンのスリープ状態から解除して、やってきた人たちに、どうもと挨拶した)
サシノ「そ。その通り。ちょっと小噺をするところだったのです。」
セレビィ「小噺、はじまる?聞く聞く〜!」(もう一匹のセレビィはくーるくーると円を描くように飛んで、アリサの頭に座った。)
アリサとアンナ(挨拶をした後、顔を見合わせてダンクマールとサシノの前に座る。)
シャイト「……パンドラの箱……?あの時セレビィの言ってたやつかな?」(と呟きながらその場に座る)
フラノ「・・・。」(真剣な面持ちでコタローとともにその場に座る)
ダンクマール 「そんな怖い顔しなくても、別に怖いものが出てくるわけじゃないから。ま、もしよかったら聞いてってよ」 (と笑顔で返した)
サシノ(よっと、とベンチの上に座った)(緊張するなあ…と座ってくれている面々を見て、震えている。息を吸って、吐いて。お話スタート)

昔々あるところにダークライがいました。 ダークライは夜になると相手に悪夢を見せてしまうポケモンでした。 そして新月の夜になると彼自身が悪夢を見てしまうのでした。  ある新月の夜、ダークライが悪夢を見て苦しんでいると、どこからか女賢者が現れて彼を介抱しました。 ダークライは、誰かが自分に触れた気がしました。 そしてその人の髪の匂いを感じた気がした。 そんな気が、しただけでした。  そしてまたある新月の夜にダークライがまた悪夢を見て苦しんでいると、女賢者が再び現れて彼を介抱しました。 覚えのある香りに目を覚ますと、ダークライは初めて女賢者の顔を見ました。 優しげな顔立ちでした。 その柔らかい手が彼の背中を撫でていました。 しかし彼は慣れない感覚に背中がぞわぞわするのでした。
その後、何度かこのようなやり取りを繰り返しました。 ある日、ダークライは女賢者に尋ねました。 「なぜ俺を助けるのか」 女賢者は曖昧な笑みを返すだけでした。 しかしその手の温かさは彼の背中よりも奥の輪郭にあるものに触れていました。 ダークライはいつの日か目を細めた木漏れ日が風に揺れるのを思い出していた。  ある時、女賢者が言いました。 「もしよかったらあなたの力を貸して欲しい」 ダークライはそれを聞いて驚きました。 「嫌だ。嘘をつくな。悪夢を見たい者なぞいるものか」 彼はそんな話を信じることができなかったのでした。 「嘘ではない。本当のこと」 「嘘でないといい切れるのは何故だ」 「私が必要としているから。他にも大勢の人が必要としているから」 女賢者はそうきっぱり言い切りました。 ダークライはその瞳を覗き込みました。 その中には少しの偽りも見ることができませんでした。 「あなたの悪夢を見せる能力を必要としている人がいる人が大勢いる。 もし私が嘘をいっているのであれば、この水瓶をあなたの力で満たしてご覧なさい。私一人が次に会う時まで見切れない悪夢を見る力を封じ込めてご覧なさい。 きっとこの水瓶を空にしてあなたにお見せしましょう」 今まで誰からも必要とされてこなかったダークライはその話に乗ることにして、女賢者の持ってきた水瓶を悪夢で満たしたのでした。

セレビィ(ふむふむ、と腕を組んで聞いている。)

次に二人があった時、女賢者はその水瓶を空にして持ってきました。 その水瓶には一滴も悪夢が残っていませんでした。 ダークライは驚きました。 「私が必要としているから。 他にも大勢の人が必要としているから」 彼女のいっていたことは本当だったのでした。 「俺の力は確かに、彼女に必要とされて多くに人に必要とされている」 そう思うと、ダークライはなぜか自分の心が不思議と晴れ上がるのを感じました。 少しだけ心が温かくなるのを感じました。 「もし、あなたが良ければもう一度この水瓶を悪夢で満たして欲しい」 女賢者は言いました。 「もちろんだとも」 そうダークライは照れた顔を女賢者に見られないように言いました。  悪夢に苦しむダークライを女賢者が介抱し、ダークライはその水瓶を悪夢で満たす。 そんなやりとりが何度か続きました。 「もし、あなたが良ければもう一度この水瓶を悪夢で満たして欲しい」 女賢者は毎回会う度にそう言いました。 そしてダークライはそう尋ねられる度に段々と照れた顔を女賢者に見られても平気になっていました。 「君は悪夢を見ないのか」 ある時、ダークライは女賢者に尋ねました。 この水瓶いっぱいの悪夢をこの人は誰と見ているのだろうか、と気になったからです。 「いいえ、見ないわ。そもそも私は悪夢を見たことがない。きっと見られないのね」 女賢者は答えました。 ダークライは女賢者ともっと会って話がしたいと思うようになりました。 そこでダークライは、新月の夜以外にも会えないかと尋ねました。 しかし、彼女が首を縦に振ることはありませんでした。 ダークライは音もなく体を濡らす雨雲の真下に立っているような気分になりました。

フラノ「・・・。」(まるでおとぎ話だ、これは現実にあったことなのか?といった感じ。すっかり話に引き込まれている)
アリサ(セレビィをひょいと持つと、膝の上に乗せて続きを待つ。)
シャイト「……」(ゆっくりと尻尾を振るう。)

ある時、ダークライはその人にどうしても会いたくなりました。 どうしても会いたくなって普段はけして立ち入らない街や森に行きました。 彼女の姿を探し、彼女の姿を探し続けました。 しかし、その姿を見つけることはできませんでした。  ダークライはどうしても彼女に会うことができませんでした。 そこで彼は思わず、今まで話したことがないポケモンに尋ねました。 「こんな人を知らないか」 多くのポケモンは彼の姿に驚いて姿を隠してしまいました。 しかし、その中には答えてくれるポケモンもいました。 「いいえ。知りません」 それは彼が求めていた答えではなかったけれど、その答え方は彼を突き放すような答え方でなかったことに彼は少し驚いたのでした。
ある日、ダークライが再び街で彼女を探し続けていると、見覚えのある水瓶を持った人を見つけました。 その人は男だったが、その水瓶は確かにダークライが見たものと同じものでした。 「あれがそこにあるということは、彼女がその水瓶を取りに来るかもしれない」 ダークライはそう思ってその男の後を追いました。  ダークライがその水瓶の行方を追うと、その水瓶はこの街にいる誰しもが知っている大賢者と呼ばれた人の邸宅へと運ばれていきました。 「あの人はここにいるのかもしれない。ここで待とう」 ダークライはそう思いました。  しかし、そこに現れたのは大賢者と若者たちでした。 大賢者は、水瓶を若者たちに言いました。 「よく来た。未来の賢者たち。今から君たちに真の賢者に近づくために一つの試練を与えよう。 これは、賢者の試練と呼ばれているものだ。君たちは、自分の弱点という実態化した悪夢を倒さなければならない。 悪夢といってもそれはダークライというポケモンの力を応用してできたもので、それは本物だ。 それの存在の確固たるものや、今私を東から照らす太陽が西に映す影のようだ。 君たちはそれに殴られれば痛みを感じる。それの放つ言葉によって傷つけられる。 この試練を乗り越えた者には…」  ダークライはここで、自分の力がどのように使われていたのかを初めて知りました。 賢者はその知恵で世界に希望をもたらす存在です。 将来の賢者になる人たちのための訓練に自分の力が役立っていることを知って、ダークライは嬉しくなりました。


セレビィ(じぃっと、話し手を眺めている。)
アリサ(ふんふん、と頷きながら聞いている。)
シャイト(自分の弱点、という言葉に耳がピクリと反応した。)
フラノ「賢者の・・・」
コタロー「・・・試練」(スフレにも試練が課されているのか、とつぶやく)

ダークライはその気持ちを素直に女賢者に話しました。 しかし、女賢者は曖昧な笑みを返しただけでした。 彼の嬉しい気分は本当でした。 ただ一つ気になったのは、その瞳の中にわずかに悲しげな色合いを見出してしまったことでした。 「彼女もきっと喜んでくれると思っていたのだが」 彼はそうこっそりと思うのだった。  ダークライは女賢者ともっと話したくなりました。 しかし、女賢者と会えるのは新月の夜だけで、それ以上増えることはありませんでした。 その代わり、彼女はその代わりに毎回続きの気になる話をしてくれるようになりました。 物語の一番盛り上がる直前で「今日はここまで」と彼女は話を打ち切りました。 そして次の夜にその続きから話をして、また物語の一番盛り上がる直前で「今日はここまで」と彼女は話をやめてしまうのでした。 ダークライはその度に、その続きが気になったし、彼女の話す物語をずっと聞いていたいと思うようになりました。  尽きることのないお話に彼は目を輝かせました。

サシノ (なんとなくフラノを見ていて、ひょっとしてこのポケモンも “試練が課せられてる”のかな? と思うのであった)
シャイト(うんうん、と頷く。)
セレビィ(ひょいん、と目の上の触角のようなものが動いた。)

(顔を覗かせていた月が雲に隠れてわずかにあたりが暗くなった)

ある時、ダークライはなぜ彼女と新月の晩にしか会えないのかと疑問に思うようになりました。 そして、考えているうちにある一つの考えが頭に思い浮かびました。 それを思い立った時、一匹の鳥ポケモンが羽ばたいて彼の視線を過ぎっていきました 鳥ポケモンが見えなくなっても、大きく目を見開いていました。  しかし、彼はそれをずっと秘密にしておこうと思いました。 その秘密の箱を開けてはならない、彼はそう思いました。 「中身が気になってしまって開けてしまったが最後、そうしてしまったことを後悔するだろう」 彼はそう感じたのでした。

アリサ「…………。」(じぃっと聞き手の物語に聞き入っている。)
フラノ・コタロー(二人とも、一層顔を引き締めて物語を聞いている)

ある時女賢者が言いました。 「もう、私の役割は終わった」  そこで、ダークライは彼女にあることを打ち明けました。 それは彼がずっと考えていたことでした。 「君は、俺が見ている悪夢の一部に過ぎないのか?」 それを聞いた女賢者はしばらく足元をじっと見つめて、靴で地面をざり、鳴らしました。 「君と会っているときは決まって俺が悪夢を見る新月の夜だけだ。本来、俺は夜通しで悪夢を見続けるはずだ。しかし、俺は夢から醒めた記憶がない」 女は一つため息を吐くとすっかり観念した様子でダークライを見つめました。 「私はあなたが見ている悪夢に入り込んでいるだけの幻。賢者たちの作った、あなたから力を分けてもらうために作られた幻影に過ぎない」  ダークライは黙ってそれを聞いていていました。 それは彼が考えていたことと同じだったからでした。 そしてそれが本当のことであるとわかってしまって、いうべき言葉を見つけることができなかったからでした。 「初め、私は自分の役割をこなすことにしか頭になかった。けれど、そのうち私も私がただの作り物に過ぎないことがわかり始めた。だから、私は自分の役目をこなしつつ、自分のやりたいことをするようになった。あなたと、お話をするということを」

アンナ(ぱちぱち、と目を瞬かせている。)
フラノ「・・・!」(息をのむ)
シャイト(やや耳を垂らす。)

「君は俺を利用していたのか?」 「初めのうちはそうだった。でも、あなたと話をしたいと思ったことは私の本当の気持ち。 私はあなたと一緒に話をしているのが好きだった。 私だって自分がそんなものだなんて信じたくなかった。 それが幻であるなら、醒めないで欲しいと願っていた。 けれども、もうお別れ」 そういうと彼女の体は透け始めました。 「ごめんなさい。ありがとう。あなたと話をできて本当に楽しかった。 ダークライ。悪夢のポケモン。私、一度でいいからあなたと悪夢を一緒に見てもよかったのかもね」 そういった彼女は、いつの日か見た笑みを浮かべていたのでした。 その姿はだんだんと薄くなり、そしてついには消えてしまいました。

アンナ(しょーん、と耳を垂らす。)
フラノ「・・・。」(フラノの目から涙がこぼれ、コタローの頭に落ちる)
コタロー「・・・フラノ姉ちゃん?」
シャイト(尻尾が静かにユラリと揺れる。)

その日、ダークライは生まれて初めて声を上げて泣きました。 「仮にその人が夢であったとしても誰かに差し向けられた人であっても、彼女と話しているときは本当に幸福だった。 もし彼女がいなかったら、俺は自分が役に立てるかどうかなんて知る由もなかったし、賢者たちに利用されていたなんてわかった時にはきっと怒り狂っていただろう。 しかし、例えそれが悪夢の延長線に過ぎなかったとしても、彼女とそして誰かの役に立てたということは本当のことだ。 だからいずれまた、まだ他の誰かと知り合い、その人の役に立てるかもかもしれないという実感もきっと誠のものだろう」  風がこおっと吹き、草むらと樹々がざわめき立つ。舞い上がる葉に登ったばかりの太陽が瞬く。 静かに寝静まる東の街の遥か向こう山々が朝焼けに染まっていく。 深い群青の空と大地が黄色い光で満たされていく。 眩しい今日の陽の光が彼を照らし、新しい陽だまりを新しい色で満たしていく。 太陽を見つめた真っ白な瞬間に彼女の笑顔が浮かび上がる。  朝焼けに涙がにじんでも、声が締め付けられるようになっても、彼は悲しさで目が見えなくなることはもうありません。 それは、いつの日か彼女の手の温度が、消えることのない火となって彼の中に灯り続けていたからでした。

フラノ「うぅっ・・・ぐすっ・・・」(終わると同時に本格的に泣き出す。悲しい話とは予想していなかったらしく、涙が止まらないようだ)
アリサ(最後まで話を聞き、息を吐く。)
セレビィ「……?(顔を上げてアリサの様子を伺い、そうしてふわりと飛んで、)
アリサ「なんだか、不思議な気持ちになるお話だね。」
コスモス「………悲しいね。」(どこかから聞いていたのか、物影から皆さんの前に出てきた。)
シャイト(ぶわっと目尻に涙が浮かぶ)「………………」(声は上げないが、次々と頬を伝う涙を一生懸命拭った)
アリサ「うん、彼の中に出来上がった、パンドラの箱は、真実の名前となって「悲しみ」を与えるけど、彼女の存在が、「希望」となって残った。ってところかな。」
サシノ「これが、パンドラの箱についての始まりの始まりのお話でした…」 (と十分な間を残した)(すーっ、とを吐いた)「ご静聴、ありがとうございました」 (と深々と礼をした)

この後も話は続いたがそれはまた別の話。
月が夜をやさしく照らしていました。