2021年8月21日 夏祭りバトル!拳がつなぐ絆!  編集:Rista

今年も無事に開催された、島の夏祭り。
恒例のポケモンバトル大会ではある常連客の提案から「参加賞」が導入されるなど、ちょっとずつ進化を始めていた。

これはそんなお祭りの一場面。
2021年大会で最も多くコメントを集めた熱戦の記録である。

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 8月も折り返し地点を過ぎたある日の夜、静かな入り江。  波が来る場所から少し離れた砂浜に座って、一人静かに海を見ている少年がいた――

 そこへ歩いてきた、表情筋が硬い中年のつりびと。名をヨシナリという。
 彼は今日ここである約束をしていた。といってもその相手は共に暮らす「家族」なので、一緒に家を出ることもできただろう。しかし島に行こうとした時にはもう家にいなかったので、必要な物だけ持ってひとり出てきた。“必要な物だけ”といっても見た目は普段とあまり変わらないが……

ヨシナリ「(砂浜にいる影を見つけて、のそのそと近づいていく。えぇと、同じ家から出ておいてこんばんはは無いし、対戦相手でお間違いないですかと聞く必要も無いし、えぇーと) ……悪い、遅くなった(……という挨拶にしよう!)」

ミズ「(こういう時はどんな風にすればいいのだろう。例えるなら親子のキャッチボール的なもの……なのかもしれないが、初めてなのだ。波の音で足音は聞こえなかったけれども、声をかけられると少し慌てて立ち上がり、振り返って)えっと……よろしく、おねがいします。(と、こちらは明らかに緊張している様子の挨拶)」

ヨシナリ「(こちらも実は“こういうコミュニケーション”の経験に乏しい。『息子とやりたいこと』の定番ではあるが、ミズ君以外の子供は娘だった。) ……そんなに強くないから、緊張しなくていいぞ(こっちもなぜか硬い。勝負を申し込んだ側なのに……)」

ミズ「(緊張、だんまり――近い人と、普段はしないことをするのだから……ふぅっ、と短く息を吐いてから自分の頬を両手でパチンと軽くたたき)……はじめみゃしょっ!(ボールを一つ構え、放りながら噛んだ(…)」

 光の中から現れたのは――ナマコブシ。緊張感でガチガチなトレーナーとは対照的な、おなじみの無表情。
 いっぽう“息子”が勢いよく噛んだ台詞に、ヨシナリは逆に肩を揺らす。そんなに……。 こっちまで何か重大な責任を負ったような気持ちになりつつ、彼もボールを投げた。 ……出てきたのはニョロボンだ!

ミズ「(ぶみ、と鳴きながら白い拳を振るい上げるナマコブシ。戦意旺盛な後ろで顔を赤らめながら)……その前にコイントス…ですよね。えっと(ごそごそ、と財布から一つ小銭を出せば、構えながら)」

ヨシナリ「……(ナマコブシって戦えるのか? ……いや、俺のこと何度も殴ったしな(…) ナマコブシとニョロボンを順番に見て、ただのおはぎと思って油断するなよ、という意味を込めて釣り竿を軽く振った) あぁ……そうだな。頼む」

ミズ「じゃあ、表なら父さん…裏なら、僕で(ぴん、と弾き上げて――キャッチしようとしたら取りこぼす。地面に落ちそうになったところをナマコブシの中身がさっとキャッチして――掴んだコインは裏だった)……じゃあ、僕からで。」
ヨシナリ「……よろしくお願いします(こちらも帽子をとって頭を下げ)」

 ミズとヨシナリ。
 この島で出会い、いくつかの縁で結ばれ、家族として手をつなぐことになったふたり。
 父子の交流は何もキャッチボールでなくてもいい。今夜はポケモンバトルで、彼らの絆は深まる。そんな夜になりそうだった。

ミズ「(小銭を返してもらうと、改めて先ほど噛んだことから切り替えるように息を吐き)……ナミダ、ちょうはつ!(ブンブンと振るっていた拳がピタリと止まると、脱力したような形に広げて手招きするように、相手の攻撃を誘った!)

ヨシナリ「(……顔を上げたときには保護者の目からトレーナーのそれに変わっていた。釣り竿を相手の方へ向け……) ……!(僅かに目を見開く。 ……駄目だ、あれに乗ったら最初から戦術が狂う! すぐに竿でクーラーボックスを叩くも、)」
鳴門丸(ハ? ただのおはぎに挑発されたんですが? 静止の合図をする主には「嫌であります!!!!!」と素直に返事をし、勢いよくナミダへ突っ込んだ! ……「アクアブレイク」だ!)

 ミズの狙い通り、鳴門丸は挑発に乗って突っ込んできた!
 逞しい相手のニョロボンを見つめ、ミズの頭には少しだけ不安こそ過るけれども。
ナミダ「――ぶっし(ぐい、と鎌首をもたげる蛇のように拳を曲げて)」
ミズ「ナミダ、受け止めて!(打たれ強さを信じた。掛け声に合わせて中身をひっこめて「アクアブレイク」の突進を一身に受け止めた、その瞬間――)『カウンター』!」
 指示を受け、ナミダのつぶらな瞳がきらりと輝く。
 体が凹むと同時に飛び出す渾身の中身が、鳴門丸のうずまきを的確に打ち抜こうとするアッパーカットとなって襲い掛かる!

ヨシナリ「……、」(言わんこっちゃない! だが顔を覆う暇も無い。溜息だけ小さく吐き、「踏ん張れ」と「その攻撃入ったの自分のせいだからな」という意味を込めてもう一度クーラーボックスを叩く。……直後に素早く竿を後ろへ引いた!)
鳴門丸(ぴえん主がきびしい。自分のせいだけど!(…) カウンターを受けつつ、「失礼いたしました!」という意味を込めてしっかりと踏ん張り、ナミダの体を掴もうとする。そのまま握力を込めて「ドレインパンチ」を行おうとしているぞ!)

ミズ「(キレイに入った、けれども相応の攻撃を受けているわけで)ナミダ、まだいける!?(効果はいまひとつ、問題ない、と言うように親指を立てるナマコブシの中身。掴みかかる鳴門丸の動きを見て、意を決した表情を見せた)ナミダ、無茶いくよ!」
 ナミダは、応、と答えるように掴みかかる鳴門丸に中身の拳を振り上げるような素振りを見せ――
ミズ「『いばる』!」
 親指をグッと自分に向けて、早くも勝ち誇ったようなポーズをしてみせた!

鳴門丸「ハ???」
 クーラーボックスを叩く音!
鳴門丸「嫌であります!!!」
 クーラーボックスを叩く音ッ!!!
鳴門丸「嫌でありますッ!!!!!」(…)
 このときヨシナリは内心で頭を抱えただろう。
 ちょうはつ、カウンター、いばる。あの小さな体で進んで攻撃を受け続ける様子。ナマコブシのバトルは初めて見るが、初めて見ても確実に“性質を存分に生かした”闘い方に見える。大してこちらはうちの子の中でもすぐに精神が乱れる子、お前かくとうタイプだろしっかりしてくれ! そんな嘆きも混乱中の彼には届きっこない。
ヨシナリ「…………」
 ついに彼はクーラーボックスではなく、自身の手で竿を叩く。その音に反応したニョロボンと共に、静かに竿を持たないほうの手を上げた。
 それを合図として……
鳴門丸「???? ??う うゎうわあああああばんざあああああああああい!!!!!」
 3ターン目にして! 玉砕! ニョロボン自身に当たれば終わりの「きしかいせい」が繰り出された!
ヨシナリ「…………やりよった(混乱のままに真っ直ぐナミダへ突っ込んでいった姿を見て、ここで初めて声が漏れた。(…) 」

 一方のミズも気がかりがなくはない。
 図鑑で調べれば、攻め手を持たないポケモン。だから「こうするしかない」というのは分かっているけれども、見ている自分は不安にしかならない。耐えてくれ、と祈るように拳を強く強く握り、結んだ口の中で歯を食いしばった。
 大きく吠える声と、拳が下りてくる――こちらも一発目にいいのを貰っている。その上今度は相性がいいわけでもない技。受け止めて、カウンターをしても難しい。もう一つの技は『まもる』でも、『じこさいせい』でもないのだ。だから――
ミズ「――やっちゃえ!!『カウンター』!!(鳴門丸に負けないぐらいに声を張り上げて、決めるつもりで声を上げて拳を突き出した!)」(偶数なら受けきってカウンター、奇数なら受け止めきれずに戦闘不能――) (1D6 → 2 = 2)
 ナミダは拳を受け止めた。
 再び中身の豪快なアッパーカットが鳴門丸の渦巻きを狙って撃ち出される!

 とてもいい音がした。
 高くつき上げられる拳――決まった瞬間がスローモーションで見えた気がした。

 鳴門丸のナマコブシより何倍も大きい身体が浮き上がり、鈍い音と共に砂浜へ落ちる。
 その両目には、おなかとおんなじ模様が映っていた。
 戦闘不能だ!

ミズ「(鳴門丸が落ちると同時に駆け出してナマコブシを抱え上げた)――大丈夫!?」
ナミダ「ぶみ(おう、やってやったぜ。と言うように小さく中身で親指を立てて見せるが、良いものを二発も喰らったのだ。少しだけ身体はくたっとしていた。)」

ヨシナリ「……。ありがとうございました(竿を降ろし、帽子をとって頭を下げ、顔を上げたときには……) …………いや、感想はたくさんあるけども、君、才能あるぞ(保護者に戻りきれないままに、普段より少し早口で言った。) 」

ミズ「(柄にもなく大声を出したせいだろうか、ドキドキが収まらない。ヨシナリの言葉に少し頬を赤らめながら)僕、よりも……ナミダが、頑張ってくれたから。(と、謙遜しながら鳴門丸を見下ろした。普段なら「大丈夫?」と声をかけるところが、今は「本当に勝ったんだ」という感動と、余韻の方が勝っていた(…)」

ヨシナリ「(抱え上げられたナミダと、ちょっと興奮気味のミズを見て、) ポケモンが頑張ってくれると信じるのも才能のうちだ(これもまた普段より早口で。) …………まぁ、こいつも精一杯頑張りはしたけども。最初で出鼻を挫かれたからな……根気同士の勝負を戦術で制したんだ。それはトレーナーの采配だ(結構喋る!( )」

ミズ「(こんなに饒舌なヨシナリは初めて見た気がした。そして、誰かと一緒に勝ち取る勝利って、こんなに嬉しいんだ)……楽しかった。すごく、楽しかったです。(と、ヨシナリからの称賛の言葉に、鳴門丸からヨシナリへ顔を向ける。父を見上げながら、嬉しそうに、心から嬉しそうに笑顔を見せた)」

 ミズの視線がヨシナリのそれと重なる。
 本気でないバトルなどそもそも存在しないが、それでも真剣に、本来は好まない博打のような指示までして、そして負けた。
 ここで見つけたのを連れて帰って、育てた子供が、今日のバトルで自分を負かした。負けたのになぜかこうも嬉しい。

ヨシナリ「…………そうか。こっちも楽しめたよ」(暗いし、誤差だから、向こうには分からないかもしれないけど、ちょっとこちらも笑顔になってしまった感覚がした。)
ミズ「……また、勝負したいです。僕のポケモン、もっと見てほしいから」
 一緒に過ごしてるから知っているかもしれないけれど、そういう意味ではない。
 ミズは嬉しそうにふふっと声を出すと、ハッとした様子で屈むとナミダを下ろして、リュックから傷薬を取り出した。ナミダに傷薬を吹きかけ、鳴門丸のお腹のうずまきにも吹きかけてあげる。
ヨシナリ「……ああ。是非見せてくれ(家に置いている水タイプとのバトルでさえ新鮮だったのである。他の子はどんな闘い方を見せてくれるのか、純粋にトレーナーとして興味が湧いていた。) …………こう、結構、(「バトルは好きだから」、と急に声量を落として話す。……こう見えてバトル好きだから、誘ってくれればいつでも相手するよ! とまで言えない性格であるが故のこれ。()」

鳴門丸「(傷薬をかけて少し経てば、自分でむくっと起き上がる。) ……参りました! 素晴らしい体力と腕力ですね……!(そしていまさらビシっと頭を下げる。( )」
ナミダ「ぶみゅう(むにゅ、と飛び出した中身でサムズアップ。お前のパンチもかなり効いたぜ、とのことだ()」
鳴門丸「(サムズアップを返し、くるっと振り返り、……) あっ、あの、すみません、カッとなった上に二度も命令違反を(急にしぼむ。( )」

ミズ「(二匹の様子を見て、ほっと息をつき)――じゃあ、帰ろう。お父さん。(と、ナミダを抱えると、お腹の辺りの砂を払って落とし、ボールには入れずに頭に乗せた。)」
ヨシナリ「…………。(三歩でニョロボンの前まで歩き、竿を持たない方の手を出し……) ……最後。お前にしちゃ勇気を出したほうだ。今回はそれでいい(反応を待つ前にボールを当てた。 熱が冷めるとどこまでも恥が勝るトレーナーである。(…) ……そうだな。帰るか」
 ヨシナリと鳴門丸のやり取りを見て、ミズも頭上のナマコブシをポム、ポム、と撫でた。
 胸に手を当ててみた……まだ、ドキドキしている。ヨシナリが隣にやってくると、いつもよりもほんのり嬉しそうに、同じ家へとふたり歩いていくのだった。