煌めく銀河の片隅で 〜長すぎてプロP化されなかった、とある事件の記憶。  作:Rista 投稿日時:05/4/30


 遙か昔、遠い銀河の彼方で……


 ……じゃなくて。

 ここは森の奥、散歩道のルートを外れてしばらく行ったところにある、化屋月華堂の備蓄倉庫。
 隣のそこそこ大きな一軒家ともども、所有者はもちろんカフェのオーナーでもあるRistaだ。
 しかし本人はなんだかんだ言って忙しい身なので、ふたつの建物の掃除は俺たち持ちポケが当番制でやることになっていた。
「カインさーん、これはどこに運んどけばいいですかー?」
「ああ、それは賞味期限関係ないから奥」
 俺はサードレベル(要するに二軍)のブーピッグに指示を出してから、足元に視線を落とした。
 そこにはほうきを持ったヒトカゲがいる。ひと掃きするたびにホコリが舞い上がり、そのたびに咳き込むのを見ていられなくなった俺は、そいつからほうきを取り上げた。
「……ヒロ。お前もういいから、あっち行って技の練習でもしてろ」
「やだ。」
 やっぱりというか、即答で抵抗された。
「しょうがねぇなぁ。じゃ、俺も一緒に休む」
「…………」
 俺は戻ってきたブーピッグにほうきを渡すと、ヒロを連れて外に出た。
「その辺ぶらぶらしてるのも何だし、どっか行くか。そうだな……」
「いいの?掃除さぼって」
「お前が一緒なら大丈夫。トレーニングでもやってれば、遊んでたことにはならないし」
「そうやってひとを言い訳に利用するわけ?」
「いや、そういうんじゃなくてだな……」
 そんなことを話しながら並んで歩いていると、ヒロが急に足を止めた。合わせて俺も立ち止まる。
 どうした、と聞く前に理由が分かった。
 とってもいい匂いが風に乗って漂ってくる。風上を見ると、生い茂る木々の中に、春の日差しを浴びて輝く花畑がかいま見えた。
「あんなの、あったんだ?」
「知らなかった?……ま、Ristaはいっつもここ避けて通ってるからな。無理ないか」
「どうして?」
 俺たちの足は自然と花畑へ向いていた。
「多分、半年前の事件を嫌でも思い出すからだろうな……」




 今は4月の末なので、正確には5ヶ月前になる。
 カフェの待合室にある掲示板に、こんな書き込みが見つかった。

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聞いてくれ。
オレの元主マルスンが突如、銀河宇宙連邦(オレが所属していた軍隊)に対してクーデターを起こした。
奴は配下のクローン軍を使って、全銀河を制圧するつもりだ。
・・・・・当然ながら、地球も狙われるだろうな。

それから、電波傍受の結果、誰の目にもつかないこのカフェパを着陸拠点にしたいらしい。
したがって、奴らはここに大規模な攻撃をしかけてくる!
第一波は明日(23日)の昼頃に攻撃してくる。
戦える奴は戦う準備をし、戦えない奴は避難の準備をしてくれ!
以上だ。

ん? マルスンの持ちポケが何故ここにいるかって?
ああ、逃げてきたさ!
あの独裁者の元で働くのはごめんだからな。
一応伝えておくが、明日来るのは第一波・・・・・
第二波が何時くるかわからない・・・・・。
とにかく、カフェパに危険が迫っている事は間違い無い。
全員の協力が必要だ。

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 それを書いたのは、今はポッターの持ちポケになっているバンギラスのギラッドだった。当時は別の名前を名乗ってたけど。

 マルスンって奴は遠い宇宙の一角で、様々な星が集まってで来た「銀河宇宙連邦」の軍を率いていた。
 で、そっちの仕事の縁だとかでポッターの監視役ポストに収まって、時々カフェにも来てたんだ。
 紫電の所の大佐と意気投合したり、ゲンキに勝負を仕掛けてボロ負けしたり……俺が見聞きした限りだと、お堅いけどちゃんと良識もある「愛すべき頑固ジジイ」って感じだったな。

 ところが、だ。そいつの理性は欲望に負けちまった。
 連邦の領域を自分のものにして「銀河帝国」を名乗っただけじゃ気が済まなくて、俺たちがいるこの星をも欲しがったんだ。

「……で、どうしてここなの?誰の目にもつかない所なんて他にいくらでもあるんじゃないの?」

 そうだな、お前の言う通りだ。
 でもここにしたのは、マルスンがカフェを気に入ってたっていうのもあると思う。自分の所のより居心地がいいって言ってたし。
 多分、総督の座を獲った時の勢いを失いたくなかったんだろうな。マルスンは自分の軍を次々とここに送り込んできた。

「軍……?」

 あっちの文明は地球よりはるかに進んでるって話だ……戦闘専門のクローン兵士、CTって呼ばれてる奴を大量生産して、でかい宇宙船で地球に送りつける、なんてことは楽勝らしい。
 もちろんこっちだって、ハイそうですかと明け渡しはしないさ。
 そりゃRistaやチェルク店長もハラハラしてたけど、それ以上に手が早かった……いや、敏感に反応したのは、カフェに通ってる常連客の方だった。

 最初に大規模な襲来があったのは、ギラッドの予想通り、書き込みの翌日。
 Ristaは説得しようとしたけど無理だった。総督の言い分はこうだ。

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Rista「仮にあなたが首尾良く銀河を手中にしたとしましょう、その後は何をするつもりなんです?」
マルスン「決まっているだろう。全銀河をわしの支配下に置き、わしの軍隊をさらに強大化させるのだ!
     ・・・そして、わしが全銀河・・全宇宙の支配者となるのだ!」
Rista「……支配して、どうするんです。その先を聞きたいんですよ。」
マルスン「わしの好き放題にさせてもらう。その後何をしようかなどお前には関係無かろう・・・・
     逆らう者は皆排除する!」

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 一方的に言いたい放題で回線切断。これじゃ説得どころか、受け入れられるわけないよな。
 そして、戦闘になった。
 敵の馬鹿でかい戦車と常連達の技や武器が、そこかしこでぶつかり合ったんだ……




「……ここもその一つなんだってさ」
 俺は肩をすくめ、ヒロはしゃがんで花を見つめた。
 咲き乱れる花が風に揺れている。きっと何にも考えてないんだろうな。
「かわいそうに、お互い初めての衝突だったせいで、力加減が分からなかったんだろうな。たくさんの木が消し飛んで、こんな空間が出来たってわけ」
「そしてたくさん人が死んだ」
「…………」
 何を言い出すかと思えば。
「それが戦争ってやつじゃないの?前に聞いた」
「あー……まあ、な……」
 誰だよそんなこと教えた奴は。
「……一応言っとくけど、犠牲になったのはあっちの兵隊さんだけだからな。しかも戦車の下敷きとか何とか。最初っからそんな風にするつもりで戦ってた奴はいない……って、俺は聞いてる」
「それで?」
 ヒロが顔を上げた。最初に会った時のような冷たい目、すべてを疑う目で、俺をにらみつける。
「……その日は、敵の撤退で終わった」




 帝国にとってその敗北は大打撃だったらしい。
 CTの量産にはそれなりの時間を食うし、本拠地から地球までは一週間かかるっていうからな、おかげでしばらくの間は割と平和だった。
 といっても、相手だって戦力がゼロになったわけじゃない。時々偵察には来るし、そのたびに“義勇軍”の連中がちょっかいを出しに行ったし。小競り合いも珍しくなかった。
 ポッターのバクフーンをさらって、何かしようとしてたって話もあったっけ。
 一方では交渉役を送り込むこともあった。戦わずに済めばそれに越したことはないからな。「共に銀河を支配しよう」なんて誘ってきたんだけど……

「それ、完全によくある悪役のセリフだよね」

 その通り。だから誰も応じなかった。みんな権力より大事なものがあるって知ってるし、ひどいことをされた怒りってのもあったし。怪しい奴がモニターに映ればすぐに駆けつける正義感もあるし。
 それで、10日くらい経った頃かな。進軍してきた強襲艦のCTが義勇軍とのバトル前、こんなことを言ってたんだ。

『コマンダー、部隊は予定通りに到着します』
『御苦労。総督も来るであろう』

 総督自身がこっちに来るってことは、カフェの征服をその目で見届けるってことだ。かなり大規模な戦力をよこしてくるつもりなんだろう。
 当然、義勇軍も本格的な攻撃が来るならってことで、準備を始めた。互いの足を引っ張らないよう、それぞれの出方を確かめながら。
 いろいろやってたらしいぜ。ポケモンたちの技を磨くのはもちろんのこと、トレーナーたちも自衛の準備だ。相手は機械や重火器を中心に使ってくるからな。中には宇宙船を建造して、地球の外で待ち伏せようとする奴も出てきた。
 見た目だけで言えば準備万端、完璧そのもの。強さは折り紙付き、連携もまあまあ。ただしまとまった作戦を打ち出して指揮を執るリーダーはいなかったみたいだけど。

「……で、Ristaは?何かやったの?」

 ああ、それはな……お前も知ってると思うけど、あいつに戦闘向きのスキルはほとんど無い。
 行っても足手まといだってことがある事件ではっきりしてからは、交渉で何とかすることにしたみたいで、情報収集に走り回ってたな。

 そして数日後。総督からの伝言を携えて、ポッターの遺伝子を使った兵士が送り込まれてきた。
 顔が同じなら惑わされないだろうとでも思ったんだろうけど、そいつが総督譲りの高圧的な態度と来た。これじゃどうしようもないよな。
 それでも散々警告しなきゃならないほど、帝国がこのカフェと常連の存在をおそれてたのは確かみたいだけど。

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Rista「……で、「最後の通達」の内容とは?」
Cポッター「帝国への服従だ。これが最後の警告となる。同意せねば大規模な攻撃を確実に実行する」
Rista「……どこの帝国で?」
Cポッター「決まっているだろう。マルスン総督の銀河帝国だ。」
ルーチェ「・・・ふくじゅーって、何ですk(蹴られ」
ルーイ「ベタなボケをかまさない。」
Rista「ああ。……その総督は本国の方にいらっしゃるんで?」
Cポッター「大規模攻撃の日に御出でになる。占領された哀れなカフェパの姿をな・・・・」
デューク「・・・散ったCTへの慰霊なら歓迎・・・と行きたいがそんなタマでもないだろうしなぁ;」
Rista「すると、大規模攻撃は今日から見積もって少なくとも一週間後と言うことですね。」
Cポッター「地球時間の今週か来週には大規模攻撃を行うとおっしゃった。」
デューク「今週か来週に来襲・・・範囲が広すぎるな、狡猾な・・・(マテ」
Cポッター「機密を漏らすと思ったのか、愚か者。」

ヤマブキ「ちょちょっちょい待ちや。話が見えへんがな。あんたは何がしたいねん?」
紫電「うわさの段階ですが、大佐がコネで核兵器を用意したと聞きましたよ」
Cポッター「核兵器など使用すれば、占領地が駄目になるだろう。」
ヤマブキ「つーことは何や?あんたら、悪モンか?(どこか話がズレている」
Cポッター「貴様達の悪者と我々の悪者の定義が違うようだがな・・・・・」
デューク「ま、そりゃ歩む道が違えば価値観も違うだろうさ。」
佐藤軍師「……全ての人に共通する正義なんて無いんだよ……誰かにとっては正義でも、他の人から見れば悪にだってなるだろうし……。」
紫電「あなたから見れば我々が悪なのだが、我々から見たあなた方は悪に見えるんだ」
ルーチェ「悪にだって正義がある。悪からみる正義は悪なんだから。悪が正義だと思っているものを正義から見れば悪なんだから。(いきなり何」
ヨール。〇(・・へぇー・・(ぁ?)
ナイツ「一度に同じこと言ってる……」
カイン「そりゃ、誰から見てもその原理自体は正しいからな。」

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 もちろん常連達の主張はもっともなこと。
 ついでに言うと、前の戦闘で連戦連勝だったせいで常連達にも余裕が出てきて。真剣に任務を遂行してるそいつに悪戯を仕掛けてからかったりもしてたんだ。
 ところがRistaは違った。あの仏頂面を崩さず相手の話を最後まで聞いてから、いきなりこう言い出したんだ。

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Rista「……まあ、何にしても……総督にお渡しする権利書なら用意できているんですが。」
Cポッター「・・・・・思ったより馬鹿ではないようだな。」
Rista「私個人の立場としては、損失は最小限に抑えたいんです。本業が商人ですから。」

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 権利書はオーナーの証。これを渡すってのがどういう意味か、それくらいは想像つくだろ?
 だから、この提案にはみんな驚いた。顔に出したのは向こうが帰ってからだけどな。

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Cポッター「・・・・では、大人しく渡してもらおうか。その権利書とやらを。」
Rista「ここにいる方々、案外統率取れてないんですよ。
    だからあなたに渡したところで、ここの誰かの仲間があなたを襲って奪うかもしれない……」

ヤマブキ「…なーんか納得いかへんな…」
蜂「・・・・いいの、権利書渡して?」
塑羅「さあ?店開いたことないし・・・。」
蜂「ソレは知ってる。」
シフト「ま、カフェのその後についてはRistaさんがよろしくしてくれるだろうさ。接収されなきゃの話だが。」

Rista「……大事なものです。出来れば権利者当人に、直接お渡ししたいんですよ。」
Cポッター「身の危険を考えずにノコノコと来る方だと思っているのか?」
Rista「もちろん「身の危険」に対処する手段をお持ちでしょう?それを知っているからこそ言っているんです」
Cポッター「・・・・・」

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 こうなると相手も折れるしかないよな。で、秘密にするはずだった到着日時が明らかになった。

 そして当日。厳戒態勢の中、総督は本当にやってきた。率いてきた軍隊を宇宙空間に残して、最小限の護衛だけを引き連れて。
 Ristaは念のためといって本人確認をした後、総督に権利書を渡し……手を離す前に言った。

『通達が出ているんです。総督の名をかたる偽物が辺境の星系に出没している、見つけ次第捕らえよと……』

 総督が動揺したその瞬間、それまで普通の客として振る舞ってた常連達が一斉に立ち上がった。そして護衛のCTをことごとく打ち倒したんだ。同時に宇宙では待機していた軍をギラッドとシフト達が追い返した。
 これで総督は完全に孤立。捕らえられた後、平和でまともな統治者になるよう記憶を改変されてから、ギラッドと一緒に帰っていった。

 帝国が内部構造を改め、「銀河共和国」として新たな一歩を踏み出したのは、それから少しだけ後のこと……




「大まかな流れはそんなとこかな。一人一人の活躍を個別に説明してったらそれこそきりないから」
「ふーん……」
 ヒロはしばらく考えた後、
「で、その時の共和国が分裂して、また戦争してるってわけ?」
「そういうことだな」
「分かった。後は他の人に聞くから」
 立ち上がって、さっき来た道を引き返す方向へ走り始めた。
 そう、関わった奴はたくさんいて、その活躍の仕方は様々。中には全く無関心な人、話は聞いててももろもろの事情でCTには遭遇せずに済んだ人もいる。一方ではRista以上に大きな功績を残した人ももちろんいた。これだけは彼らの名誉のためにも述べておこう。
「おい、待てよ!転んだらどうすんだ!」
 俺はどんどん小さくなる背中に向かって叫んだ後、花畑に向き直って軽く手を合わせた。