親子の愛 Rieekan's story  作:ポッター 投稿日時:05/5/9


※注意:ファウンスのポケモンは喋りませんが、読者の方々にわかりやすくするために日本語表記とさせていただきます。


ここはファウンス、俺の生まれ故郷・・・・。
俺は親父と二人だけで、この場所に戻ってきた。
美しい大地、緑の匂い、野生のポケモン達・・・・・・何年も前にポッターとここを旅立ってから何も変わっていなかった。

ライカン「・・・・どうだね、久しぶりの故郷は?」
バクフーン「本当に久々だよ・・・・あの日から何も変わってない」
ライカン「お前も変わっていないな」
バクフーン「うるせぇ; 肉体的にも精神的にも成長したさ!」
ライカン「本当か?」

親父のライカンは何時ものように腕を組みつつ、俺を真っ直ぐ見ていた。
すると、俺はさっきの発言に急に自信をなくして、彼から目を逸らし周りの風景を見ている振りをした。
・・・・親父の言葉には何か特別な力があって・・・・俺は何時もその力に圧倒される。
俺は恐る恐る視線を戻すと、彼は俺から目を離し、空を見上げていた。

バクフーン「どうしたんだ?」
ライカン「・・・・私から見れば、この世界は大きく変わったと思う。45年も生きていればわかるものだ」
バクフーン「変わったって?」
ライカン「30年前に比べれば、だ」

30年前・・・・・俺がまだ生まれる13年程前のことか。
たしか、その時代はファウンスとロケット団が激しく衝突した事件があったと聞いたことがある。
親父の顔を見ると、俺は少し驚いた。
普段あんなに元気な親父が、微笑んでいるが、それでいて何処かとても悲しそうな表情をしていた。

ライカン「30年前のこの日、この地ファウンスで多くのポケモン達や人間達が犠牲となった。その犠牲を、私も数多く見てきた」
バクフーン「・・・・そんなに多くのポケモン達が死んだのか?」
ライカン「一時はファウンスのポケモンの殆どが全滅しかけたと言っても良い。・・・・見方によっては、その一部は私が殺したとも言える」
バクフーン「見方?」

俺は普段親父の話なんかあまり聞かないが、何故か段々このことは聞きたくなってきた。
親父が立派な戦士として戦っていた時代・・・・一体どんな時代だったのだろう?
・・・・知識というのは、一部だけ知るとさらに知りたくなる、一種の麻薬のようなものだ。
親父と俺は近くの切り株に腰掛けた。

バクフーン「・・・・詳しく教えてくれよ、その話」
ライカン「ようやくお前もこのような話に耳を傾ける歳になったのだな。わかった、教えよう・・・・30年前のことを」



―――30年前―――
その事件が起こる15年前に、私はマグマート一族の長『スタム・マグマート』と彼の妻『ナート・マグマート』の息子として生まれた。
私は戦士として育てられ、厳しい修行も有無を言わさず課せられた。
辛く・・・長く・・・厳しい人生だった。
何度も逃げようと思った。だが、私は自分の弱い心に打ち勝つため、決して逃げはしなかった。
そのような厳しい訓練が実を結んだのか、15歳の時に息子と同じように父親に戦いを挑み、見事一人前として認めてもらうことに成功した。

スタム・マグマート(以下スタム)「フゥ・・・フゥ・・・見事だ、ライカン」
ライカン「ハァ・・・ハァ・・・俺だって・・・やる時はやるんだ!」
スタム「うむ、よく頑張ったな・・・・」

父スタムは、心から当時の私を祝福してくれた。
しかし、父はしばらく撫でてくれた後すぐに真面目な顔で指摘を与えた。

スタム「だが、もう少しフットワークを意識して素早い動きができれば、相手を翻弄し集中力を乱すことができただろう」
ライカン「・・・・ああ」

父はどんなに成功しようとも、必ず何処かに注文をつけていた。
だが、私はそれを悪意として捉えるのではなく、愛情として捉えた。
真の愛情があるからこそ、自分の欠点を指摘してくれ、完璧にしてくれるのだ。
私も父を心から愛していた。

ライカン「俺、その欠点を克服するために頑張るよ!」
スタム「うむ。・・・それから忘れるな。相手に勝ったことよりも、己に勝ったことを喜びなさい。お前は一人前だ」
ライカン「えっ!? 今何だって?」
スタム「お前は一人前だ。父親である私を倒したのだから。これからも、その能力を毎日磨いていきなさい」
ライカン「・・・・ありがとう、親父!」

我々マグマート一族には、父親を倒すことで初めて一人前として認めるという伝統があった。
私は今まで味わったことの無い満足感に浸りながら、父をじっと見つめていた。
今まで半人前と言われてきた自分が、ようやく認めてもらえたのだ。
ところがその時、遠くの方で大きな爆発音が聞こえた。

ライカン「・・・・一体どうしたんだ!?」
スタム「自然にあのような爆発音が起こるとは考え難い。・・・・恐らく侵入者だ」
ライカン「侵入者だって!?」
トロピウス「スタム! ライカン! 大変だ!」

上空から一匹のトロピウスが降りてくる。
そして、父と私を見つつ状況を報告した。

トロピウス「ロケット団だ! 奴らはここに秘密基地を造るつもりだ!」
スタム「私もすぐに行く。・・・・ライカン、聞いたかね?」

彼の話を聞いた後、父は私を見てそう言った。
その言葉の意味することはすぐにわかった。
・・・・・自分も出撃するべきなのだと、自分の力が必要とされているのだ、と。

ライカン「・・・ああ、俺も行くぜ親父! ファウンスを護るよ!」
スタム「ライカン、ついて来なさい!」

・・・私達は全速力で爆発音のした方向に走った。
木々の間を縫うように走り、逃げるポケモン達とすれ違い、倒れた木を飛び越え・・・・
そして目的地に辿り着いた。

R団員A「邪魔な木々は退けろ! 道を切り開くんだ!」
R団員B「邪魔するポケモンは片っ端から殺せ!」

・・・・人間の作り出した大きな機械―――後にブルドーザーという重機であることがわかったが―――を止めようと、他のポケモン達が突進していく。
しかし、彼らは銃で撃たれたり、時にはその機械に潰されたりしたのだった。
私は我慢ができなかった。とりわけ我慢ができなかったのは、自分と全く同じ種族であるバクフーンが、ロケット団に味方している光景だった。

バクフーン♀「さあ、ロケット団のためにここを明け渡しなさい! さもないと痛い目に遭わせるわよ!」

彼女は火炎放射で木々を焼き、抵抗しようと接近してきたポケモン達を次々と倒していた。

スタム「良いか、ここは私に任せて、お前は他の子供達を彼らから守るのだ」
ライカン「嫌だ、我慢できない!!」
スタム「ライカン、よせ!」

父の話を聞かずに、怒りのエネルギーを爆発させ、私はそのバクフーンに向かって突進していった。

ライカン「てめぇっ!! よくも俺の仲間を・・・・ファウンスのポケモン達を!!」
バクフーン♀「あら、随分と元気なボウヤだこと」

私はメスのバクフーンに全力でパンチを繰り出そうとした。
・・・・だが、何故か私の体は急に動かなくなった。
まるで大きな力が押さえつけているかのように・・・・・

ライカン「!?」
バクフーン♀「あたしはセヴランス・マンティス。念力を使えるのよ・・・・死ぬ前に覚えておきなさい」

そう言うと同時に、彼女は私の腹部を鋭い爪で深く切り裂いた。
周りの植物に血が飛び散り、私は大きく吹き飛ばされ、木に激突した。

周りの光景がぐるぐる回り、危うく気絶しかけた。
だが、幼い頃から鍛えられていた私の体は、その程度では死に至らなかった。
彼女は意地悪そうな笑みを浮かべ、私を見つめていた。
私はセヴランスを睨み返しつつ立ち上がり、戦闘体勢をとった。
二人の背中の炎が噴出す。

セヴランス「その生命力があれば、ロケット団でも役に立つのに・・・・」
ライカン「生憎、俺はロケット団が嫌いでね。協力する気なんか微塵も無いぞ!」
セヴランス「勇敢ね・・・・でも愚か。あたしに挑んだことを後悔させてやるわ」
ライカン「望むところだ!!」

私は戦士の雄叫びを上げながら、セヴランスに再び突っ込んでいった。
右パンチを素早く繰り出し、その後脚払いで転倒させる。
だが、相手は素早くこれらに対処し、私に至近距離で火炎放射を放った。
そして私が怯んだ隙に彼女は強烈な念力で私を岩に向かって突き飛ばした。
激突した瞬間、背中に鋭い痛みが走った。
再び立ち上がり、私はセヴランスを正面から睨みつけ、警戒した。
しかし、足がふらつき、呼吸も困難になってきた。

セヴランス「そろそろ苦しいでしょ?」
ライカン「・・・・くそっ・・・・血が・・・・」
セヴランス「このままじゃ出血多量で死んでしまうわよ?・・・・若いのに勿体無いわね」
ライカン「・・・・俺だってここでは死にたくない」
セヴランス「条件を呑めば、助けてあげる。・・・・条件さえ呑めば、ね」

彼女は当時の私にとって痛い条件を出してきた。
それは、私を助ける代わりに、ファウンスの仲間に基地の建設を容認するように説得しろとのことだった。
息が苦しい・・・・目眩もする・・・・そして、死への恐怖・・・・・
私は悩んだ。自分としては助かりたい・・・・。だが仲間は? 仲間はどうなる?
家族は・・・・友達は・・・・?
そして何より・・・・大好きだった父を裏切ってロケット団側に就くのは嫌だった。決してあってはならないことだ。
私の答えは一つだった。

ライカン「・・・・嫌だね」
セヴランス「それは残念なこと。・・・・貴方なら要求を呑むと期待していたのに」
ライカン「仲間を・・・親父を裏切るくらいなら、死んだほうがマシだ!! うおぁぁぁぁッ!!」
セヴランス「・・・・!!」

両者は火の玉のごとく、激しくぶつかり合った。
出血量からして、もう気絶していても不思議ではない状況だったというのに、私の体は恐ろしい速度で動いた。
私は父への愛を自分のエネルギーに変え、セヴランスに凄まじい勢いで攻撃をした。
そう、愛が私の命を繋ぎとめていてくれたのだ。
パンチを顔面に打ち込み、さらに飛び蹴りで相手を数メートル吹っ飛ばす。
相手が怯んだところを狙って、またさらに腹部にパンチを加える。
流石のセヴランスも動きが鈍り始め、強烈な念力も放てなくなった。
私は渾身の力を込めて、最後のパンチを彼女の頬に打ち込んだ。
セヴランスは大きく吹き飛び、木を一本なぎ倒してその後ろの茂みに落ちた。

ライカン「はぁ・・・・はぁ・・・・愛ってのはなぁ・・・・そんな安っぽい誘惑なんかで壊れるものじゃないんだよ!!」
セヴランス「・・・何時か・・・必ず復讐してやる・・・!!」

セヴランスは立ち上がり、逃げる他のロケット団員と共に逃げていった。
どうやら、他の場所でも彼らの退却が始まっているようだった。
私は崩れるように地面に倒れた。
いや、正確には倒れそうになった、だな。
誰かが私を抱きかかえてくれたのだ。
・・・・父スタムだった。驚いたことに、彼の目には涙が浮かんでいた。

スタム「・・・・ライカン・・・・無茶なことを。私はお前が死んでしまうのではないかと心配したぞ・・・・」
ライカン「・・・親父・・・・・俺・・・・生きてるよ・・・・・勝ったよ・・・・・」
スタム「生きていてくれて何よりだった・・・・そして・・・・本当によく頑張った・・・・」

父は私を抱き締めてくれた・・・・・今までよりも強く。
私も同じように涙を流した。愛する父のおかげで、戦い抜くことができたのだから。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


ライカン「・・・・これがその当時の話だ」
バクフーン「セヴランスって・・・・おいっ、それって俺のお袋じゃないか!?;」
ライカン「その通り。・・・・その後、任務失敗で彼女も命を彼らに狙われることになり、私と同盟を組んだわけだ。そして・・・・」
バクフーン「現在に至る、と;」

親父は頷いた。
・・・・未来は本当に何が起こるかわからないものだよな。
まさかそのバクフーンがお袋だっただなんて・・・・。
・・・・その時、俺は話を聞く前のことを思い出し、親父に尋ねた。

バクフーン「なあ親父。話の前にさ、『見方によっては殺したも同じ』なんてこと言ったじゃん? でもこれって、ハッピーエンドじゃないのか?」
ライカン「私もそれで良いと思っていた。・・・・・今年の2月までは」
バクフーン「えっ・・・?」
ライカン「実は話の続きがある。父が、死ぬ前に私に話してくれたことだ・・・・」




―――2005年2月―――

その日、父スタムが危篤状態だと聞き、私は大急ぎでファウンスに戻った。
私は、草のマットに横たわっている父を見て驚きを隠せなかった。
・・・・あんなに元気だった父が・・・・衰弱しきっていたのだから。
その父に私は近づき、膝をついてじっと見つめた。
父は私に弱々しく微笑んだ。

ライカン「・・・・お久しぶりです」
スタム「おぉ・・・・・我が息子よ・・・・よく戻って来てくれた。もう会えないのではと思っていた・・・」
ライカン「会えないわけが無いでしょう。貴方はまだまだ生きるのですから。私も来月にはここに一度戻ってこようと考えていたのですから」

私は父がそう長くは無いと知っていながら、敢えてそう言った。
・・・・死んで欲しくない、という強い気持ちからだろうか。
父は微笑みつつ私を真っ直ぐ見ていた。

スタム「・・・・敢えて言うでない、そんなことを。見ての通り・・・・・わしはそう長くは無い。体が衰弱しておる・・・・死も近い」
ライカン「父は死にません・・・・!」
スタム「勇敢に戦うことができ、それを教えることはできても、死を止めることはできん。・・・・夕日を止めることができないのと同じことじゃ」
ライカン「・・・・父には死んで欲しくない! 私は貴方のおかげで頑張ってこれたのです・・・・・どんなに辛くとも」
スタム「ライカン」

父は何時ものように、愛情を込めて私を叱りつけた。
・・・・懐かしい・・・・あの頃のように。
スタムは時間の経過と共に、少しずつ弱ってきているように見えた。
私は彼を見つめ、決して目を離さなかった。
・・・・少しでも目を離せば、死神がすぐにでも襲い掛かってきそうだった。
並外れた精神力が、父の命を繋ぎとめていた。

スタム「・・・・そうだライカン・・・・死ぬ前に、お前に話しておくことがある・・・・」
ライカン「・・・・?」
スタム「お前も・・・・30年前の真実を・・・・知っておく必要があると思ったのだ・・・・」

30年前の真実。
私は父が何を言いたいのか、わからなかった。

スタム「・・・・・あの日、お前は私の制止を振り切り、あのセヴランスと戦い、見事勝利した。それは賞賛に値した・・・・だが」
ライカン「・・・だが?」
スタム「・・・・お前が戦っている間に・・・お前が守るべきポケモンの子供たちは・・・・皆殺しにされてしまったのだ」
ライカン「・・・!!」

私はショックで暫くその場に凍りついた。
本来私が守るべきだったポケモン達が・・・・皆殺しに・・・・・?
だが、すぐに私は父に反論した。

ライカン「では、何故その間に父が行かなかったのですか!?」
スタム「ライカン!!」

私の頬に激痛が走った。
父が私を、生まれて初めて殴ったのだ。
彼は私を真っ直ぐ見て言った。

スタム「・・・お前はまだ戦士になったばかりじゃった。・・・・経験も浅く、相手を分析する能力も無かった・・・・」
ライカン「私は一人前だと、あの時言ってくれたではないですか!」
スタム「ライカン、他人の話は最後まで聞きなさいと、口を酸っぱくして言ってきたはずじゃぞ?」

優しく叱り付ける口調に変わりは無かった。
私は黙って、彼の話に耳を傾けた。

スタム「・・・・わしはお前のことが心配でその場を離れることができなかったのじゃ。・・・もしも・・・もしものことがあったら・・・と」
ライカン「・・・・私の死を恐れていたのですか?」
スタム「わしとナートのたった一人の息子じゃ・・・・それは宝物のように可愛がったものじゃ・・・・その息子を、危険な状況に一人にするわけにもいかんじゃろう?」

父の私への愛が、これほどにまで深かったものなのかと、私は心の中で呟いた。

スタム「お前もわしに似てせっかちじゃからのう・・・。今更過去の事を悔やんでも仕方がない・・・・現実を受け止め、責任を負うのだ。お前の今できることは一つ・・・皆殺しにされた子供達の分も、お前が生きるのだ」
ライカン「・・・全力で生きていきます。・・・ところで・・・何故父は私をすぐに助けなかったのでしょうか?」
スタム「・・・・経験じゃ」
ライカン「経験・・・・?」
スタム「このような実戦は滅多に経験できるものではない・・・・このような戦いを戦い抜けた者こそ、真の戦士となれ・・・ゲホッ、ゲホッ!」

その時、父は激しく咳き込んだ。
彼は最後の力を振り絞るように、口を動かした。

スタム「ライカン・・・・私からの最後のレッスンだ・・・・・・後は・・・・・別れというものを学ぶのだ・・・・・・・」
ライカン「・・・・父さん!!」

彼は大きく息を吐き出し、そのまま動かなくなった。
・・・・私を心から愛し育ててくれた父、スタム・マグマートは息を引き取った。
心に底なしの大きな穴が開いた気持ちだった・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――


バクフーン「・・・・へぇ、親父にそんなエピソードがあったんだな」
ライカン「父は死んでしまったが、私はそれでまた一段成長した気がするのだ。父から与えられた最後の課題、成し遂げたのだ・・・・」
バクフーン「大切な人の死を糧に成長する事ってあるんだな。・・・・・・ところで親父?」
ライカン「何だね?」

俺は少し恥ずかしかったが、思い切って聞いてみた。

バクフーン「・・・・親父は俺のこと・・・・愛してくれている?」
ライカン「なんとっ、それを訊くのか!;」

ああ・・・・これを皆が聞いたら大笑いだろうな、きっと。
俺達はポッターの自宅に戻るために一緒に歩き始めた。
親父は微笑みながらこう言ってくれた。

ライカン「愛しているとも」

それを聞いて、俺は正直嬉しかった。
やっぱり愛の力に勝るものは無いなw
俺は親父と共に、ファウンスを後にした。