べすとぱーとなー?  作:緑翠ルーチェ 投稿日時:05/5/22


「レナァァック!てめぇ失せろいっそ散れ!」
「いやちょっまだ心の準備が」

カッ・・・ズドギャアン!
凄まじい音と共に放たれた光線が、何かを貫いた。
「・・・た、たかがホットドック2本で・・・」
「俺の朝飯と昼飯、各一本ずつ。今日は出かけるから尚更返せ」
破壊光線直撃でぶっ倒れたブラッキーこと、レナック・・・昔カフェに来てたが今は2軍だ。
倒れつつもホットドックを離さないその意地にはちょっと目を見張るものがある。

「返せ。」
「・・・俺は今日朝抜きだったんだ、一本くr」
レナックを睨みつける。
何だかよく分からないが今は特殊能力化している、「恐怖」。
これは習得したっつーか、身についてたっつーか・・・

「・・・う、あ・・・あーでも返さない!ここd」
「お前散るか?」
いざ行かん、かわら割りの構えを取った瞬間。


「また貴女は何を・・・いい加減止めてください!


恐ろしいスピードで飛んできたのは、・・・バット?
ああ、バットだ。間違いなくバットだ。
それを確認できる自分の動体視力はどうなのだろうかとか思いつつ、軽くかわした。

「ふぐぉっ!?」
そしてかわされたバットは、後ろにいたレナックに、クリーンヒット。
「・・・生きてるか?」
レナックを蹴りながらの問いかけに、レナックはぽつり、と言った。

「・・・どして、あんたはそんなに強いんだよ・・・と言うか、昔どんなんだったのさ?どこをどう間違ったらそうなるんだ?そして何故ティーダと」
フッ、と笑ってレナックを蹴り飛ばしつつ、俺は言った。
「聞きたいか?」
「・・・え、あ、いいんすか?」
蹴られた場所をさすりつつ(どうやって)レナックが興味津々な顔で問いかけた。


「・・・いいが、まずホットドック返せ」
「パスで。」
「・・・てめぇ、しばくぞ?」

「だからいい加減にしろって言ってるでしょうがー!」

数秒後また飛んできたバットを避けつつ、しばらく自分のことを考えてみた。
いつから、高みを目指すようになっただろうか。
・・と言うか、いつからこんなんになったんだ、俺。

とか何とか思いつつ、レナックに話してやる内容を考えていた。



そう、忘れもしないというかむしろ忘れたい、サファリゾーンにいたころの話。
いや、ぶっちゃけ言うともっと前の話の方がよかったかもだが俺のイメージ総崩れだし、どうしようかと(何
それにティーダと会ったのってサファリだしさー、あー俺どうしよう。


ヒュッ・・・カツッ!

石が飛んだ。いや、俺に向かって飛んできた。
飛んできた方向を睨みつける。

「ひ・・・ぃっ!」

すぐに、どこかへ慌てて走っていく音が聞こえた。
・・・逃げて行きやがった。

ホウエン地方、サファリゾーン。
いろいろなところに生息する様々なポケモンがいる中で。
俺たちライ・・・じゃない、ピカチュウもその様々なポケモンの1種だった。

そう。ここが俺とルーチェが出会った場所である。
ここにいた時は、いつも・・・と言うかほぼずっと、俺は1人だった。


ガサガサッ


茂みから音がした。振り返る。睨む。
・・・それで、もう茂みの中には何もいないことが分かる。いやむしろ茂みの中の何かは逃げていく。
第一俺に近づいてくるのは余程の物好きか、・・・ここから俺を追い出すのが目的の奴か。
その2種類だけだった。後者ならば、今の行動で逃げていく。

暇過ぎる。

こんな時は、自分の故郷を思い出してみた。
カントー地方の、トキワの森。そこが俺の故郷だった。
「・・・ちっ」

ただ、そこでもよかったことは1つも無かった。むしろ不都合が多すぎて困った。
今考えるならば、ここの方がいくらかマシかもしれなかった。


そう、カントーにいたころもそうだった。
トキワの森で1度つかまり、大してレベルも上げないうちに逃がされて。
本当に死ぬ気になって森まで戻ったはいいものの、歓迎が待っているわけが無い。
普通のピカチュウより体躯が大きめなだけでバケモノ呼ばわりされる場所だったからだ。
それに、訳のわからない技を多数覚えさせられていたし。
技は、ほとんど使ったことがなかった。技を使っても、下手な電撃ぐらいだった。

「おい」
「・・・っ!な、何の用だ!」
「・・・フン」
ちょっと話しかけるだけでこうの大人はまず近寄ってこない。
子供・・・もとい、ピチューたちがよく集まってきた。
子供は嫌いというわけでもないし好きでもなかったから、適当に遊んでやっていた。


そんな生活にも飽き飽きして来たそのころ。
ホウエン地方にサファリゾーンを作る計画がどうだこうだとか、そんな話を人間から聞きつけた。
聞いたことの無い地方。・・・むしろ、ここから離れられるならどうでもよかった。


・・・そして、捕獲されて・・・サファリゾーンでの生活に至る。

他のピカチュウたちの輪に混ざるなんて出来っこないと言うか最悪だ。
他のポケモン・・・っつっても、せいぜい顔をあわせたときに軽く挨拶する程度だ。
要は、とにかく毎日が暇だった。
そんな毎日を、その辺の木を相手に殴るだの蹴るだのして、すごしていた。
時たまヒビの入った石に特攻を仕掛け、そして木っ端微塵にしていた。

それが、自分のいつもの生活だった。

「・・・あ、ほらあいつ」
「あー知ってる知ってる、何か毎日木に向かって八つ当たりしてる気の狂った奴だろ」

最近は妙な噂まで立ってきた。
ろくに力は無いくせに、こう言う噂が伝わるスピードは天下一だ。多分。
けしろ、もはや既に気にかけるようなことではなかった。
俺にとっては、とても些細なことに過ぎなかったから。



大分サファリでの生活と罵りになれてきたころだった。
見慣れたトラックが数台、サファリに来ている。
「はい、確かにいますね、ありがとうございましたー」
「また、よろしくお願いしますね」
会話内容から察するに・・・新参者だ。
何度かこういう光景は見ているが、誰が来ようが「あの」群れの中に引きこまれておしまいだ。
徹底的に何かしら外れたものは弾く。同じ奴らだけ集まっていればいいという魂胆だ。俺は、何もかもが外れすぎていた。・・・と思う。
むしろ、初対面の奴にはしょっちゅう♂と間違えられた。そのたびに殴りたくなった。

トラックの荷台からポケモンが下ろされる。
そして、各ポケモンのいる草むらに、放されていった。
少し離れた様子から、ピカチュウの群れに混じっていくピカチュウの様子を聞き耳を立てつつ見ていた。

「じゃ、これからよろしくな、みんな!仲良くしてやってくれよ。・・・あ、それから」
リーダー格のピカチュウのあの説明を聞くのはこれで五度目だった。
所詮雑魚の集まりの癖に、そういう結束力だけは高かった。

・・・そんな中、俺の目を引いたピカチュウが一匹。

「分かったか、間違っても近づくなよ。」
「・・・あの。僕は・・・いいえ、僕たちはまだその人に会っていませんよ?なのにそうやって決め付けて会わせないのはおかしいと思いますが。」
決して大柄とも小柄ともいえなかったが、気迫だけは群れの中では十分にあった。
「黙ってろ、そこの・・・確か、ティーダとか言ったな?」
「・・・ええ、言いました。僕の名前はティーダです。それがどうしたんですか?」
冷静にかつ、淡々と自分の意見を述べるさまは、サファリでは1度も目にしたことが無かった。
・・・それほどいくじなしで馬鹿な奴らなのか、と別の方向で呆れた俺がいる。
「チッ・・・まあいい。会って首が飛んでも知らないからな」
「・・・首が飛んだら、そこまでの命じゃないんですか?僕は無駄に生きながらえようとは思いません。・・・あなたを見てると、卑怯な手を使ってでも生き残っていそうな気がします。何よりも自分の命が大切な典型的な例、ですね。」
表情1つ変えずに言い切りやがった。
周りは完全に硬直していた。誰も反撃をしない、いやできない。
「では、僕はこれで失礼します・・・」
ティーダとか言ったピカチュウが立ち上がってどこかへ駆け去っていくのと同時に、先ほどトラックから下ろされた新参者のピカチュウたちが何匹か後を追った。
・・・1人じゃない分、少しうらやましかった。
「・・・やれやれ。さて、と・・・俺はどうすっかなあ?」
あえて集まっていたピカチュウたちに聞こえるような声をあげながら、ティーダとピカチュウたちの後を、追った。

「・・・えっと、ゲンキさん・・・ですよね?」
ふと気づく。
いや、気づく前に話しかけられていた。
「そうだ。何か不都合でもあるのか」
「・・・い、いいえ・・・何も。」
先ほどの気迫たっぷりの一面とは打って変わって、どこかおどおどした表情を見せるティーダ。
・・・俺の気迫に押されているのか、そうかなるほど。(何
「さっきみたいなのはどうした。別人か?」
「・・・い、違います!あれは正真正銘、この・・・って、見てたんですか!?」
ティーダがざっと見積もって3mは後ろに下がった。
「不都合でもあるのか。」
「・・・い、いえ・・・別に、無いです。」
「そうか、ならいい。・・・しかしまあ、随分と性格変わるもんだな。・・・二重人格か?」
「・・・ち、違います!」
必死でいろいろ弁解した後、ティーダは顔を背けた。
「俺はんなこた気にしないさ。別に二重人格だろうがそうでなかろうがどうでもいい。」
そして、くるりとティーダの方を向き、言った。
「まあいい、お前はまともな奴らしいからな。」
方向転換し、そのまま歩いていった。
追ってくる気配は無かった。

「・・・何か、久しぶりにいいもん見た気がしたな。」
歩きつつ、人の気配を察知したので茂みの奥から自分らがいる草むらの場所を見る。
見知らぬ・・・と言うか、ほとんどそれが当たり前なんだけど、トレーナーらしき人どもがいっぱい。
ふと、その中に変な奴を一人見つけた。
「何だ、あいつ」
トレーナーにしては珍しく、というか何故かポケモン入りのボールが見当たらない。
かと言って、リュックなんかを背負っているようにも見えなかった。

「・・・うーん・・・やっぱ、いないのかなー・・・?」
サファリボール片手にうろうろしているその少女・・・でいいのだろうか。
黒髪ポニーテールで、服装もそこらのトレーナーとは違って異質だった。
それでも、悪い印象は感じられない。
「いいか、またくればいいし」
そう言うと、その少女は足早にサファリゾーンを出た。やけに印象に残っていた。
・・・この少女が、何を隠そう現在のトレーナー、ルーチェだった。


「・・・ゲンキさん?」
「・・・んー、あ。何だ」
少女を見てから、1週間が立った。
相変わらず毎日サファリに来ては何もせずに去っていく。
何か目的があるのは分かるが、それが何なのかは分からなかった。
「・・・最近、」
「知らんな。勝手にそう思っていればいい」
ティーダの発言を先読みした。
外れた様子は無いらしい。・・・あーよかった。

「・・・でも」
「俺は行く。」
踵を翻し、ティーダとその仲間たちから離れた。
・・・また、あいつがいる。

「・・・あー!」
ふと、少女と目が合った。
いきなり大声を上げられ、耳に響いた。しばらくの間、動けなかった。
「やっと見つけたよー、ピカチュウ!やっぱ噂に聞いただけあって可愛いーv」
何を言い出すかと思えば、次の瞬間には少女の手が自分の頭の上に伸びていた。
そして、何度かなでられた。
「・・・何を」
「じゃね、ピカチュウ。また来るから!」
「・・・ああ。」
こちらの言葉が通じるわけが無いのは、分かっていた。
でも、あいつには通じる気がした。


「ピカ目当て、か。」
水面に映った自分の姿を見る。
特に変わったところは無い・・・と。
「・・・あの」
水面に、別の何かが映った。
「お前か。何の用だ。」
ティーダ・・・もとい、標準的なピカチュウと並ぶと変わったところがよく分かる。
とりあえず座った俺を見て、ティーダが何か言いたげな表情をしていた。
「何だ。」
妙に真剣な表情のティーダ。
何を話したいのかの予想がサッパリつかず、と言うかそれ以上に自分の読みが外れたことにショックを受けた。(ぇ
「・・・ゲンキさんは、そのうち・・・ここを離れるつもりですか?」
「まあ、な。ここにずっといるつもりは無い、とだけ言っておこう。」
あっさり言ってのけた俺を見て、ティーダはしばらく考えるそぶりをしたあと、言った。

「・・・なら、その時は、僕を連れて行ってください。・・・いえ、僕が貴女を連れて行きます。」
「・・・は?」
発言の意図が分からない。と言うか理解できなかった。
まさか、とは思ったが・・・それは置いとくことにした(何

「・・・っ・・・は、初めて会ったときから・・・素敵な人だと思ってました!

長い沈黙が流れた。
「ちょ、ちょっと待てよ・・・お前・・・」
顔を真っ赤にしつつ今まで言われた内容を必死で整理する。
と言うか、絶対的にありえないと思っていた。ここだけの話、俺も初対面でティーダに好印象を抱いていたとか言う・・・げほげほっ!;(何
「・・・だ、だから・・・」
「それ以上言わんでいいっ!」
ティーダの腕をつかみ、そのまま地面にたたきつけてやろうかと思った。
・・・出来ない。
「・・・お前さえよければ、構わんっ!;」
そう言った次の瞬間、何かが俺の口あたり・・・に、触れた。

「・・・ありがとうございます。」
「・・・」
言い返すことも、何も無かった。
と言うか、何を言っていいのかがさっぱり分からなかった。
「じゃ、行きましょうか・・・?」
「・・・ああ!」
差し出された手を取り、言った。
ティーダいわく、そん時の笑顔が1番可愛かった・・・って。記憶に無いな(待

その次の日、やっぱり来ていた少女相手に特攻。
やっと学習したらしいがボールを投げられ、捕まった・・・って訳だ。












「すげー意外なんだけど、てか信じらんねー・・・」
「その口ふさがないは破壊光線ぶち込むぞ。」
口を開けっぱにしていたレナックに一言。
大人しく口を閉じたレナックは、俺を見て言った。
「てか、もんのすごい青春してるよな!」
一瞬殺意が芽生えたが、頑張って抑えた。
「・・・それは置いといて、絶対誰にも言うなよ!」
「ホットドック1本」
「・・・1本だけだぞ」
レナックがホットドックを手に取り(どうやって)口に運ぼうとした次の瞬間。

「きゃー、聞いちゃったー!ホントにもんのすごい青春してたのねー!v」
背筋が凍りついた。
殺意を揺らめかせつつ声のするほうを向くと、そこにはワタッコの踊り子・・・ララムがいた。
「あー、ララムに聞かれたっすね。・・・終わりました?」
「終わったな・・・」
ララムを見る。
何よりこいつは口が軽い。どんなに口止めしてもムダなのは分かっていた。
「・・・ララム、」
「さっ、ララム頑張って皆に教えてあげなくちゃー!」
「・・・待ちやがれこのヤローッ!」
ララムに向けて放った破壊光線は、見事なまでにララムの横を掠めた。

・・・悪いかよ、俺にだってそーいう時代があったんだこのヤローッ!