トレーナーの知らないポケモン  作:シュン 投稿日時:05/7/16


「ふう…。」
シュンは朝からずっと寝込んでいました。実は高熱を出してしまったのです。
「シュン、大丈夫?」
シュンの寝ているベットの周りに彼女の手持ちポケモンがみんな集まって看病していました。
「みんな、ありがとう…。そんなに…ひどく…ないから…。」
と言いながら彼女の声は弱々しくなっていきました。
「ゴホゴホ!」
彼女は苦しそうに咳込みました。ポケモン達の顔はますます心配そうになっていきました。
「ねえ、私達でなんとかシュンを少しでも楽にさせられないかな…。」
ヌマクローのアクアウノが言いました。
「そうよね…。いつもシュンにはお世話になってるからたまには助けてあげたいわ…。」
アチャモのファイヒヨもアクアウノに同意しました。
「とは言ってもどうするんだよ。オレ達に何ができるってんだよ。」
オニドリルのチャンバーがはっきり言いました。
「おでこを冷やすおしぼり用意したりりんごすったりはできるよ。」
オオタチのオタちゃんが言いましたが、アクアウノは納得できないようです。
「そんなんじゃなくて、私はもっとシュンの力になれることがしたいの!」
「アクアウノ、力になりたいなら大声を出さないの。シュンが休めないでしょ。」
エーフィのフィーナが言いました。
「あ、ごめんなさい…。」
「でも確かにアクアウノの気持ちはわかるよ。せめて少しでも病状のよくなる薬でもあればいいのにね。」
「人間にも…木の実や…ポケモンの薬が効けば…いいんですけど…。」
フィーナの兄のブラッキーのブラおとピッピのピピが言いました。
「あら、薬なら〜、あるみたいよ〜。」
エレブーのエレンが唐突に言いました。
「え、エレン、ほんと?」
「あるなら教えてよ。」
アクアウノとフィーナがつめよりました。それでもエレンは怯むことなく、
「キリグリくんの〜、読んでる〜本に〜、あるわよ〜。ちょっと〜、読んでみるわね〜。キリグリく〜ん。貸してね〜。」
エレンはキモリのキリグリから本をひったくり、読み上げました。
「え〜っと〜、金に〜、きらきら光る〜、木イチゴの〜甘くて〜おいしい〜、実の〜。」
「返せ!しかももたもたしすぎで何言ってるかわからん!大○こ○まか!俺が読む!」
キリグリはエレンから本を奪い返しました。
「うわキリグリ。吉○の人知ってるんだー。お笑い好き?」
「そ、そんなことより、エレンが言ってるのはこれだな。金の木イチゴの花の蜜を薬とまぜるとその薬の効果をあげることができるらしい。あがる程度ってのは風邪薬は通常症状をやらわげるくらいの効果しかないが、その花の蜜と一緒に飲めば症状の8割がたを治せるようになるってさ。」
『えー!すっごーい!』
ほぼ全員が叫びました。
「よし、そうと決まればさっそくそれを取りに行きましょう。キリグリ、それどこにあるの?」
「カフェ「パーティ」近くの…森の中の散歩道だってさ。ちょうど今頃あるらしいぜ。」
「わかったわ!みんな、行きましょう!」
アクアウノが立ち上がりました。しかし、ブラおが待ったをかけました。
「ちょっとちょっと。全員で行くわけにはいかないよ。シュンの看病する係も必要だろ?」
「そうよね…。じゃあ行きたい人だけ行きましょう。」
「私はもちろん、行くわよ。」
「私も!」
「オレも!」
「私も〜!」
「俺もいくか。」
「僕もいくね。」
「じゃあ…私も…。」
「フィーナも行きた〜い。」
ブラお以外の全員が名乗り上げました。
「ちょっと待って、みんな。それじゃ…僕1人?いやだよ〜!」
ブラおが悲しみました。
「1人にしないで、ねえ、1人にしないでよ〜!お願い〜!」
縋り付くような目でみんなを見ています。
「シュンがいるだろってのに…。冗談だって。オレはあんなめんどくさいことしにいかないって。」
「僕もこうして看病してる方がいいから残るよ。」
「私も…シュンさんの…そばに…いたいから…。」
「私は〜、インドア派だから遠慮するわね〜。」
「私はお兄ちゃんが心配だからここにいるわ。」
ブラお、チャンバー、オタちゃん、ピピ、エレン、フィーナは残ることになりました。
「じゃあ後のみんなは行くってことね。」
「もちろんよ。」
「ま、アクアウノ達が心配だからいっか。」
こうしてアクアウノ、ファイヒヨ、キリグリで金の木イチゴの花の蜜を探すことになりました。
「じゃ、必ず蜜をとって戻ってくるからね。」
「いってらっしゃ〜い。」
アクアウノ達は出発しました。もちろん今までの会話はシュンにつつぬけです。
(アクアウノ達…大丈夫かな…?)
シュンはとても心配そうな顔をしていました。アクアウノ、ファイヒヨ、キリグリの冒険の始まりです。

アクアウノ、ファイヒヨ、キリグリはカフェ「パーティ」の散歩道にやって来ました。
「ここに金の木イチゴの蜜があるのね。早速取りに行きましょう。」
「おい、取りに行くって簡単に言うが、金の木イチゴの木を見つけるのは難しいらしいぞ。花はおろか木すら見つけるのも至難の技だってこの本に書いてある。」
「えーっ、うっそー!」
ファイヒヨはかなり驚いていました。
「そんなに見つけるのが難しいものだったのね。」
「見つけられる方が奇跡に近いともある。」
「アクアウノ〜、いくらシュンのためとはいえ探すなんて無茶だわ〜。他の方法を考えましょうよ。」
ファイヒヨがアクアウノに言いましたが、
「ファイヒヨ、あなた何も感じないの?」
「え?」
「そんな見つけるのが難しい木なら意地でも見つけたいって思うでしょ?」
「そ、そう?」
「えー!ファイヒヨそう思わないの!?どうかしてるんじゃないの?」
アクアウノは真顔でそう言っています。
「アクアウノ…それすんごくむかつくんだけど…。」
「ケンカする暇があるならさっさと探せ。」
キリグリはすでに辺りを詮索していました。
「全く、ファイヒヨもキリグリを見習って一生懸命探しなさいよね。」
アクアウノも詮索開始しました。
「もう!ムカつくんだから〜!」
ファイヒヨも辺りを探し始めました。


「…うひゃ〜、よく見たらここ木がいっぱいじゃな〜い。」
アクアウノは周りが木だらけなのに気づきました。
「でも私、負けないわよ!必ず蜜を取って帰るんだから。」
アクアウノははりきって木イチゴの木を探しました。
「う〜ん、これも違うかしら。いかにもどこにでもありそうです感漂ってるし。」
やはりなかなか見つけられないだけあって捜索は難航しています。
「あれ?そういえば金の木イチゴってどんなのだっけ?」
アクアウノは大事なことを忘れていたことに気づきました。
「しまった!キリグリに金の木イチゴの写真とか見せてもらうの忘れてた!これじゃ探しても見つからないわよ!どうしよう、戻って聞きにいかなくちゃ…。」
と、振り返りました。しかし、
「…私、今どこから来たんだっけ…。」
アクアウノはいつの間にか迷子になっていました。
「うそ〜。カフェ「パーティ」の散歩道ってこんな迷子になるほど広かったっけ〜!ファイヒヨ〜!キリグリ〜!返事して〜!」
アクアウノは必死に辺りを走りましたがますます迷うばかりです。
「や〜ん、嫌よ私こんなところで短い人生終えるの。誰か〜!誰かいないの〜!いたら返事して〜!」
「は〜い!」
そこへ遠くから声がしました。
「あっ、誰かいる!?」
「僕を見つけたかったら追い付いてごら〜ん!」
声は散歩道の奥に消えていきます。
「待って〜!私本当に迷子なの〜!だから逃げないで〜!」
アクアウノは急いで後を追い掛けます。ところが相手はとても足が速く、なかなか追い付きません。
「こ、このままじゃだめだわ…。こうなったら底力、見せてやるんだから!」
アクアウノは普段は見せない猛スピードを出しました。
「オラオラオラオラ〜!」
アクアウノはついに声の主に追い付きました。



「はあはあはあはあ…やっと捕まえたわよ…。もう観念なさい…。」
「いやあ、追い付かれちゃった。君、すごいねえ。」
声の主の正体はコラッタでした。
「ねえ、あなたちょっと聞きたいんだけど…。ここから出る道知らない…?」
「ああ、それなら知ってるよ。案内してあげる。」
コラッタが歩きました。しかしアクアウノはがっかりした顔をしていました。
「はあ…出られるのはよかったけど金の木イチゴは見つからなかったなあ…。」
そうつぶやくと、コラッタがえっとした顔で、
「何言ってるの?金の木イチゴならあるじゃない。」
と言いました。
「え?!」
アクアウノが顔をあげると、
「うわあ…。」
そこら中の木に花が咲いていました。
「これ全部金の木イチゴの木だよ。」
「うそぉ、こんなにあったの?」
「この辺りはみんなこの木ばっかだよ。」
「ようし。」
アクアウノは1つの木イチゴの花から蜜を取り出しました。
「あっ、やだ。蜜を入れる入れ物がなかったわ。」
「木の葉っぱを使いなよ。」
こうしてアクアウノは金の木イチゴの蜜を集めることができました。
「じゃあ行こうか。」
「ええ。」
コラッタの道案内のおかげでやっとアクアウノは外に出られました。
「ありがとう。助かったわ。」
「どういたしまして。」
「でもよくここまで道がわかったわね。あなたここに住んでるの?それともここをよく行くトレーナーのポケモン?あれ…?」
アクアウノが尋ねようと横を向いた時にはすでに誰の姿もありませんでした。
「…どこいっちゃったんだろう…。もう帰ったのかな…?」
しばらくして、ファイヒヨとキリグリがやってきました。
「アクアウノ、先帰ってたか。」
「だめ、私もキリグリも金の木イチゴぜ〜んぜん見つけられなかったわ。」
「やっぱり見つけるのは無理だったか…。」
そんなことを言う2人にアクアウノに自慢げに葉っぱに包んだ蜜を見せ、
「じゃーん。私は見つけたわよ。」
「えーっ、ほんと?どこかそこら辺の花の蜜取ってきたんじゃないの?」
ファイヒヨが疑わしげにアクアウノを見ました。
「本当よ。」
「証拠は?」
「ちょっとどうしたのよファイヒヨ。ずいぶん疑ってるじゃない。」
「だって、私達が見つけられなかったのになんでアクアウノに見つけられるのよ。」
「どういう意味よ!」
「いや、アクアウノの持ってるのは金の木イチゴの蜜だと思うぞ。」
キリグリが言いました。
「どうして?」
「アクアウノが蜜を包んでる葉っぱを見ろ。金の木イチゴのものに間違いない。」
キリグリが本の金の木イチゴと見比べながら言いました。
「キリグリが言うなら本物ね。うたぐってごめんね。それにしてもよく見つけられたわね〜。」
「ええ。それもここの住人かトレーナーのポケモンかわからないけど偶然会ったコラッタのおかげよ。」
『コラッタ?』
ファイヒヨとキリグリの声が重なりました。
「そう、コラッタ。散歩道で迷子になってたところにでてきて道案内してくれた上金の木イチゴまで見つけてくれたのよ。私より年下っぽいのにしっかりしてたわね〜。」
するとキリグリが首を傾げて、
「はて、コラッタなんてこの散歩道に住んでたっけ?」
ファイヒヨもうーんと頭をひねり、
「私結構いろんな所探し回ったけどトレーナーらしい影も全く見なかったし…。」
「え…?」
アクアウノは絶句しました。その後、つぶやきました。
「あの子は…野生?トレーナーのポケモン?それとも…。」
アクアウノは空をいつまでも見上げていました。


金の木イチゴの蜜のおかげでシュンの容態はかなりよくなりました。
「熱が…下がって…きましたよ…。」
「これなら明日か明後日には元気になるよね。」
みんな喜んでいました。
「アクアウノ、ファイヒヨ、キリグリ、ありがとう…。」
「まあいいってことよ。」
「見つけたのはアクアウノだがな。」
「キリグリひとこと多い!」
『ハハハハハハ!』
「でも…アクアウノ達が何事もなくて…よかった…。」
シュンがつぶやきました。
「私達はそんなにヤワじゃないわよ。」
「じゃあ〜一件落着したところで〜この話見てよ〜。」
エレンは本を読んでいました。
「なになに、ああ、伝説のポケモンセレビィか。知ってるよ。」
「これはね〜、そのセレビィが他のポケモンに姿を変えて〜、迷子の子供を〜、お母さんの所まで〜、連れて行ってくれる〜、話なの〜。セレビィは〜、自然のある所なら〜、どこにでもやってくるんだって〜。メルヘンチック〜。」
それを聞いたアクアウノははっとしました。(まさかあのコラッタはセレビィが…?ま、まさか…ね。)
「アクアウノ、どうしたの?」
「なんか考え事か?」
フィーナやチャンバーが変な顔でアクアウノを見ていました。
「あ、ううん、何でもない。ただ、散歩道での出来事を思い出してて…。」
そう言っているアクアウノを見てシュンは思いました。
(アクアウノ達は散歩道でどんな冒険をして来たのかな…?きっと、楽しかったんだろうな…。アクアウノ達は私のポケモンなのに私の知らない経験をしたんだね。それを聞かせてくれるかな?楽しみ…。)
そしてニコニコ笑いました。


終わり