「過去の想い、現在の決意」  作:ガーリィ 投稿日時:05/11/1  挿絵:はる


語り:ドンすけ
作 :ガーリィ

「──あれから8年、か──…;」
 青空が澄み渡る、ある昼下がりの事。
 村の一番高い巨木の天辺で俺(ドンすけ)は一人、呟いた。
 俺にとって此処はお気に入りの場所。事有る毎にいつもやって来るんだ。──気分が落ち込んだ時、嬉しかった時、ちょっぴり切なくなった時とかに、な。
 此処からは村が一望して見える。俺たちの家や祭りの広場、大池(長老の住処)は勿論、向こうにある山(伝説の山)や、反対側の海(ミーティン海)、村の周りを覆う森(時の狭間の森)だって見下ろせるんだ。今の森は赤や黄色の色彩豊かな色で埋め尽くされていて、それだけで目を見張る。
 その眺望と同じぐらい、俺は此処の風が大好きだ。特に春、沢山の新芽の香りを運んでくるのが、な。空を飛んでいる時のとはまた違って、優しいんだ。

 ──けれど、こんな美しい景観の村に暗い過去が眠っているなんて、来たばかりの人にはとても信じられないだろう。

 俺は此処で生まれ、此処で育った。
 その間に色々な事があったのは勿論知っているし、その前の先輩たちが築いた歴史も息づいている事だって知っている。──過去の、そして現在の皆の努力無しに、歴史は語れっこないさ。そうして今の俺たちが居るんだから。
 勿論、その出来事だって──…。

 俺は静かに目を閉じた。
 するとあの、8年前の大戦争(近隣の村々による一種の領土争い)の光景がありありと目に浮かんできた。──周りの森に火の手があがる。次々と敵が押し寄せ、逃げ惑う村の住人たち──…。
 その時俺たちはまだ幼かった(ちなみに俺はその時、まだリザードだった)。村が攻めたてられ、何が起きたのか俺もホーンも逃げ惑い、そして親兄弟を失った。今まで当たり前のように思っていた“生きる”事が、こんなに不安定な要素の塊だったんだって、そう学んだ時でもあった。
 俺たちを含め何十人は何とか生き残ったけれど、その代償に心にも身体にも大きな傷を負わされた。あまりに深過ぎる爪痕を──…。
 ──だから俺たちは、戦争が大っ嫌いだ。何一つ、プラスな要素を残していってはくれない。──結局、どちらかが悲しむだけなんだから。
 ──あの戦争以後、やがて近隣の村々は争いを止め、そしていつの間にか、平和的に友好活動を続けている。──無駄な事に、どの村も最終的には疲れ切っちまったんだ。
 そこで、人間たちがオリンピックを造ったように、年に一度のバトル大会(通称:ポケカップ)が行われるようになった──そういう訳さ。

「──んっ;」
 落ち葉を散らした優しい風が、俺を現実に引き戻してくれた。




 あれ以来、ホーンはバトル──つまり戦う事を拒否し続け、正反対に、俺はバトルチームに入った。俺たち二人の人生観は、この時分かれていったんだろうな。
 一方は戦いを避け、もう一方はむしろ、戦いをする事に意義を感じた。
 勿論俺だって、ホーンの気持ちは分からなくないさ。誰も傷つけたくない──そう思うのは自然な事なんだから。
 ──けれどこの場合、それは単なる現実逃避にしか過ぎなかった。
『──俺がやっている“戦い”ってのは、“誰かを傷つける”為にやるんじゃない、“お互いを高め合い、お互いを尊重し合う”為のものなんだ;』
 そう、一度ホーンに言った事があったけれど、耳を貸してさえくれなかった。
 ──でも無理も無かった。その位、あいつは傷ついてたんだ。だから仕方無いと思って諦め、そのままの状態で放置した──いや、せざるを得なかったんだ。

 ──だけどカフェに行って、其処の人やポケモンたちに出会って、俺はそれが間違いだって事に気が付いた。
 今まで俺は、ホーンがしたくない事はさせなかったし、嫌だと言ったらその通りにしてきた。
 そんな俺が一番甘かったんだ。それじゃいつまで経っても現実を受け止めさせる事は出来ないし、其処から成長する事だって出来やしない。──つまり、善かれと思ってやっていた事が、却ってあいつの首を絞めていたんだ。
 その事に気付いた俺はハッとし、そして自分を問い詰めた。「お前は本当にホーンの事を思ってやっているのか」「何故その事に今まで気付かなかったんだ」──って。──暫くの間は随分と自虐的になっていたさ。

 ──そう考えていた間にも、ホーンは成長していた。
「──悲しみを堪える事が出来なかったら、ずっと悲しみを背負う事になる──それでも良いの?」
 最初、ナオキさんにそう言われた時は流石にショックみたいだったけど、それからあいつは、考えに考え抜いて、自分なりの答えを探していたんだ。
 “悲しみを堪える勇気”──ただそれだけを目標として、な。
 まだ答えははっきりとは見つかっていない──だけど、今のあいつなら、いつかは本当に“自分の答え”を見つける時が来る。──そう、俺は信じている。
 ──それと同時に、俺自身も成長していかなきゃいけないんだ。もう一回りも、二回りもさ。自分だけ置いていかれたら、(義理だけど)兄貴として頼りないだろ?(苦笑)

「──俺だって──…!」
 俺は空に向かって拳を突き上げた。未来に対する誓いと、希望を込めて。

「──ドンすけーっ、そろそろカフェに行く時間だよーっ^^;」
 巨木の下でホーンの声がした。見下ろせば、背中に小さなガーリィを乗せ、此方の方を笑顔で見上げている。
「分かった、今行くっ;」
 俺はすぐに下まで飛んでいった。着地する時、ガーリィのふさふさした毛が俺の翼が起こす風になびいていた。
「──じゃ、行くか;」
「うん!」

 こうして俺たちは今日もカフェ「パーティ」へ行く。

 毎日が生き生きするって、この事を言うんだろうな。
 ──俺は、“現在”にとても満足している。

「ところでドンすけ、上で何してたの?」ガーリィが不思議そうに訊ねた。
 俺は一呼吸置いて言った。「──お前には内緒だ;…どうせ登れないだろ?」
「あっ、ずるーいっ;」
 俺たちは高らかに笑い合った。

 END