コギト・エルゴ・スム  作:グロウ 投稿日時:05/11/6


――俺は誰だ――
――俺はなぜここにいる――

どこかで聞いたことのあるフレーズが、暗闇の中に響く。
…「あいつ」がよく言っていたセリフ…?
…いや、一人称が違う…。

…こいつは…

――俺は…何者なんだ――

この声は…

――俺はなぜ――

…俺自身…?

――「この世界」にいる…?――


最後の声が聞こえた直後、目を開けるとそこにあったのは…広い草原。
そう、俺が覚えている『一番最初』の景色。
ぼんやりと辺りを見回していると、頭痛とともに言葉が頭に流れ込んできた。

「お前は、暇つぶしのための人形なのだ。」

ガクンッと体が沈み、思わず下を見る。
そこにあったのは、真っ暗な『闇』。
自分を飲み込もうと、急速に草原全体に広がる。
そして、あがく暇もなく体が闇に沈んでいき…



「うわぁぁっ!!」
『きゃあっ!?』


思わずガバァッと起きた俺の声に驚いたのか、近くで高めの声が上がる。
「へっ?」と思って声の上がった方を見ると…。

   『…な、なに大声上げてるのよグロウ; 大丈夫?』
グロウ「…プーリエ…あ〜、ごめん;」

そこにいたのは、俺の3年来の相棒であるプリン(♀)のプーリエ。
どうやら俺を起こしに来たらしい。

…完っ全に自己紹介が遅れた;
俺の名はグロウ。…「自称」人間のトレーナー。
ひょんなことからカフェ『パーティー』と店がある森を見つけ、今ではちょくちょく入り浸っていたりする。


プーリエ『ったく、起こしに来てみたらいきなり大声あげるんだもん。』
グロウ「だから悪かったって。…今何時?」
プーリエ『もうお昼回ったわよ; お子様組だって全員起きてるわよ?』
グロウ「うわぁ〜;」

…ちなみに言うと、今はあの森の中じゃない。つまり、『普通ならポケモンとは話せない状況』にある。
ええと…

グロウ「そういや、ここどこだっけ?」
プーリエ『…寝ぼけすぎ; 森に通じる霧を探すために、いったんハナダシティにある隠れ家モドキまで戻ってきてるんじゃない。』
グロウ「…あ〜そうだっけ。」

…多分、傍から見てる奴らは疑問に思うだろうな。俺がプーリエと会話しあってるように見えることを、よ。
理由は不可解だけど簡単。
俺は「伝説や幻以外のポケモンの言葉が分かる」んだ。 理由? んなもん俺が知るか;

プーリエ『今日も夕方辺りからカフェに行くんでしょ? そろそろ起きてきといてよね。』
グロウ「りょ〜かい。」

俺の返事を聞くと、プーリエは軽く頷いて部屋を出て行った。


…ぶっちゃけ、俺は自分がここに存在する理由を分かってない。
自分にとって最悪なあの「団」を抜けたのだって、プーリエ達を逃がしたかったのと…あそこに、嫌気を感じたからだ。
…だけど…


ヒート『あ、グロウさんおはようございます♪』
ゼニ『グロウ、おそいよ〜。もうみんなお昼たべちゃったよ?』
ヒカリ『グロウ、おそよ〜♪』

ヒトカゲのヒート、ゼニガメのゼニ、ピチューのヒカリの三人(匹?)がリビングに出てきた俺に挨拶をする。

グロウ「おう、おはよう。…で、誰だよヒカリに『おそよう』教えたの;」
ゼニ『ダネ君。(スラッ)』
ダネ『…ゼニ、ばらすなよ;』

窓際で日向ぼっこをしていた(らしい)フシギダネのダネが、あきれたように首を上げて言う。

グロウ「ダネ、おまえなぁ;…まぁ、覚えちまったんならしょうがねぇけどよ;」
プーリエ『グロウは起きてくるのいっつも遅いんだから、意外に適切じゃないの?』
グロウ「…プーリエ;」

プーリエに茶化されてちょっと落胆しながら、朝食(兼昼食)の載ったテーブルの前に座ったところで、目の前にカチャッと湯気の昇るコーヒーが置かれる。

マイン「まぁまぁ、グロウ殿は昨日も遅くまで調べものしていたみたいですし、しょうがないですよ、プーリエさん。」
グロウ「マイン、味方はお前だけだ〜!…って、何で人型なんだ?」
マイン「いつもの姿ですと、手がないから淹れにくいんですよ、コーヒー。」

本来はマルマインであるマインはなぜか人に変身する能力を持っていて、俺がいない間のトレーナー役をやったり、時々こうやってコーヒーを入れてくれる。…いつもはすでに置いてあったから、人型で淹れてるなんてのは知らんかったけどな;


…俺が助けた奴らがいる。
俺についてきた物好きがいる。
俺が捕まえた奴もいる。
…全員が、俺の存在を認めている。

…なら、今のまま存在してみようか。
いつかいなくなるその時まで
こいつらのために存在していこうか。


グロウ「よし、じゃあチャッチャと食ってカフェ行く支度するか。」
ゼニ『あ、僕もいきたい!』
ヒカリ『ヒカリも〜!!』
グロウ「…たまには一人で行かせてくれよ;」


俺の今の存在理由は、こいつらと共に居たいから。
『コギト・エルゴ・スム』…「我思う、ゆえに我あり」。
どこかで聞いたこの言葉が、今の俺の座右の銘。
そしておそらく、これからもずっとそうだろう。

俺の存在の有無は、俺自身が決めるんだ。