成功した失敗作。  作:静峰 投稿日時:05/11/12


・・・もしも、成功していたら、今頃どうなっているのだろう・・・

幼い年齢ながらにして、そういうことを考えてみる。

ボクの名前はフォルク。青白い身体に大きな翼をもっているんだっ。
チャームポイントはねぇ、ふさふさの首の毛と前髪、
あ、あとしっぽ!・・・うわぁ、いっぱいある〜w
別名は「E−001」。R団でやっていた実験の失敗作らしい。

ボクが目を覚ましたとき、白い服を着たおじちゃん達がみんな、
梅干しを食べたときのような顔をしてた。
・・・ど〜してかなぁ?
ずぅっと考えてたら、ふと自分の身体が
ちょっと大きくなっていることに気づいた。手が青白くなっていることにも。
ものすごくびっくりした。だって、
ボクは「イーブイ」ってゆーポケモンで、その「イーブイ」の体は
青白くなんかないんだもん。

おじちゃん達の中の一人が叫んだ。
「何だ!この薄汚い生物はあっ!!」
それにつられてか、ほかのおじちゃん達も同じ様な事を言いだした。

・・・“うすぎたないせいぶつ”って、ボクのこと?

そう思っていたのもつかの間、突然最初に叫んだおじちゃんが、
ボクの首をつかんで外へ連れ出した・・・かと思うと、ボクを投げ捨てて、

「俺の数年間の努力は何だったんだ!!
 貴様なんぞ消えてしまえ!」

そう叫んだ。

どういう意味かは分からなかったけど、何となく、
ボクのことが嫌いなんだということは分かった。
首を捕まれたせいか、ボクは少し咳をしながら立ち上がった。

たくさんのおじちゃん達がボクに向かって
“黒くて小さいもの”を飛ばしてくる。飛んでくるたんびに聞こえてくる、
ドンドンという音が怖かった。

気が付いたらボクはみんなに背を向けて走っていた。ただひたすらに。
おじちゃん達が怖い。
それもあるけど、でも、それだけじゃない気がした。
・・・ボクは、必要とされてないんだ・・・

足が、止まった。
・・・必要とされてないなら、どうすればいいんだ・・・?
そんなことが、頭の中をよぎる。
それでも、おじちゃん達はボクを追いかけてくる。
・・・ボクを、壊そうとしているんだ・・・
そう思った瞬間、身体の中から力が抜けていく気がした。
それなら、走らなくてもいいじゃないか。
走ったって走らなくたって、結果は同じ。
ボクはその場に力無く座り込んだ、

・・・その時だった。

「止まるな!」

何処からかそんな声が聞こえた。
でも、その声がボクに向けられているとすぐに分かった。

「飛べ!」

さっきと同じ声がした。
飛ぶ・・・?そうか、ボクには大きな翼があるのか!
突然力が沸いて来るような気がして、ボクはゆっくりながらも立ち上がった。

バサッ、という音がして、ボクの身体は浮き上がった。
飛んでいるらしい。
“ホンノウ”っていうやつなのかな。
初めて空をとんだはずなのに、翼はボクの思い通りに動いた。

そしてボクは、後ろを振り返りもせずに、
まだ見ぬ世界へと飛び去っていった・・・

「・・・どうした?」

はっと我に返る。『あの時』の声とおんなじ声。
ここは神秘の滝、ボクのおうちがあるところ。

「ぼーっとしちゃって、何考えてたの?w」

隣に座っているのは静峰。
『あの時』にボクを助けてくれた人だ。
そして、今もなお、ボクを守るために国を離れて旅をしてくれている。
本人は、「ぶらり旅も面白いっしょ♪」って言ってるけど・・・

「べ、別に;何でもないもんっw;」

とっさにそう答えてしまった。

「ぶっぶー。こういう時のフォルクは『あの時』のことを考えてるんだよっ!」

・・・さすが、するどい。
じゃあ何で分かることを聞いてくるのさーと思いながらも、
ボクは静かに頷いた。

「ねぇ、静峰、」

「何?」

「ボクってさ、失敗作なんでしょ?」

「・・・まぁ、ね。」

静峰の顔が少し曇ったように見えた。
それでもボクは話し続ける。

「もし、成功してたら、今頃R団の道具にされてて、こき使われてるんだよね。」

「そりゃあ、確実にそうだっただろうなぁ。」

さらっと答えられた。
静峰の顔が普通に戻っていた。

「じゃあ、ボクは失敗作のままでいいよねっ?w」

「・・・もちろん。」

静峰が、ちょっと笑った。

成功するっていうことが、いいこととは限らない。
失敗した方が、かえっていいこともある。

ボクは、失敗したから、今、幸せなんだ。

失敗は、幸せのタネ。よ〜く見ないと分からないかもしれないけど、
・・・見逃しちゃうなんて、もったいないよ。