スノーストーリー  作:クロ 投稿日時:06/4/17


白銀の世界。
果てしなく続く白い世界。
僕は白い防寒服に身を包み、新雪のベットの上に寝転がり、上空を見上げる。
漆黒の闇に点在する、無数の星。
彼らは自分の存在を主張するかのごとく光輝く。
星明かりは僕らを優しく包み込む。



スノーストーリー



僕は目を瞑り、今あった出来事を回想する。
キャタピラを破壊され、二度と動かなくなった戦車。
狙撃され、二度と立ち上がらなくなった兵士とその相棒達。
……全ては、僕らの理由無き戦いの結末。
戦闘でたくさんの人間、ポケモンの命が散った。
その大部分は、まだ15,6歳の少年達。
徴兵され、夢を失った少年達。
何も判らず人間の我侭に付き合わされるポケモン達。
これも、理由無き戦いの結末。
僕は立ち上がり、辺りを見回す。
失った命は戻らない。
決して戻る事は無い。
判っている。
それでも、現実を見ると何時でも息が詰まる。
ひょっとしたら…。
近くに倒れている少年を見ながら僕は思う。
その姿を自分と重ねてしまう。
次にこうなるのは僕かもしれない――と。

不意に、ラジオの音が聞こえた。
DJが何かを喋った後、音楽が流れる。
スローテンポで歌詞がとても良い、と騒がれた曲。
リズムが悲しく聞こえるのは僕だけだろうか。
そこまで考えて、僕は雪上に座りラジオを持った少年に目を向ける。
年齢は12,3歳くらいだが、童顔のおかげでそれよりも年齢は低く感じる。
白い防寒服に大きく赤十字が描かれ、一目で軍医と判る。
僕は彼に話しかける。
「シロ、帰ろう」
そして、右手を差し出した。
「このまま、どっかに行きたい。」
シロは僕の手を握り、立ち上がりつつ言った。
「どっかって、どこへさ。」
「…あそこ以外のどこか。」
……そんなこと、出来る筈が無い。
逃げるって、どこへ?
ラジオから曲は流れ続ける。
少年と少女が出兵の為に離れ離れになってしまう、そんな内容の歌詞。
真の意味は反戦だが、その頃の僕はそこまで理解出来ない歳だった。
「……これ以上、人やポケモンを傷つけたくない……」
シロが言った。
これ以上傷つけるなら死んだ方がマシだ……と続けて言った。
優しい少年だった。
僕は本当に、逃げたくなった。
このまま、何処かへ逃げれば…ひょっとしたら助かるかもしれない。
死ななくてすむかもしれない。
夢が叶うかもしれない。
「……シロ。」
僕が言った。

同時に。
轟音。

僕らは轟音の方向を見た。
飛行船が飛んでくる。
大きく旋回して、雪原に着陸した。
……僕らを迎えに来た。
シロがあそこといった場所。
僕らの仲間が生活を共にする場所。
次の戦場へと僕らを運ぶ場所。
絶望と死が交錯する場所。
今の僕らが戻るしかない場所。


今の僕らが戻るしかない場所。