あの日の手  作:那智 投稿日時:07/7/1


幼稚園に入って間もない頃。
私はあの場所に飛ばされたのだ。


あの日の手


今でも覚えている。
ルンルン気分で幼稚園の制服を着て、帽子を被っていってきますって言って、家を出て、前が光って、飛ばされて。
気がついたらそこはよくわかんなかった。
皆皆倒れてて、でも知らない人ばかり。

すると向こうから紅い髪に赤い眼が目立つ大人の人がやってきたんだ。
その人は手に…紅いなにかがついた武器を持っていた。
私の姿をみると驚いて目を丸くした、そして


「こんなところでなにをしている?」


そう聞いた。
私は何がなんだかわかんなくて、それを一生懸命伝えようと声を出そうとしたけど、それは叶わなかった。
だって声が出なかったんだもの。
出てくるのは嗚咽だけ。


「!どうした?怪我でもしたのか?」
「(ふるふる)」
「なら何故…。」
「ひっく……うっぅ…ここ…どこぉ…っ…。」


襲ってくるのは恐怖と不安。
知らない場所、お母さんもお父さんも弟もいない。
そして目の前には知らない大人の人、横たわる人。
何がなんだかわからなくなって、涙が溢れてきたんだ。


「…迷子、か…?いや、迷子でもこんな戦場に来るはずがないな…じゃあ何故…。」
「怖い、怖いよぉ……っ!」


体がぶるぶると震える。
せんじょう、幼い私には意味が分からなかった。
いや、もし意味を知っていたら大声を出して狂っていたと思う。


「…とりあえず、俺と一緒についてこい、一度国に帰ってからお前を両親の元に戻してやる。」
「…ぇ?」
「約束だ、だからついてこい、ここに居たら危ないぞ。」


出された手。
一つの約束。
私は…


「…うん…!」


迷わずその手をとった。
そこから私の全てが始まった。



「ふぅん…そんなことがありましたのねぇ。」
「…興味、ない。」
「ということは…那智は3回異世界トリップをしたということになるのですよ。」
「凄いですねー!えっと…その約束、果たされたんですか?」
「ううん、ぜんぜーん!その世界は私が住んでいた世界とは違うから両親も知ってる人もいないし、ましてやあの人が世界と世界を移動できるわけでもなかったしねー。」
「…でも。」
「うん、楽しかった、戦争とか色々あったけどホント楽しかったよ!」
「じゃあ、何故那智は軍をやめたのですの?」
「…その話はまた今度、今日はもう寝ましょう!」
「えー!」
「ぐずぐず言わない、ほら寝る寝る!」


覚えています、あの日の手。
覚えています、あの日の約束。
貴方は元気ですか?


ー終ー