過去の夢―The pastDream―  作:熱汐 投稿日時:08/12/21


あの時、あの夢は俺に何を伝えたかったのか…。


ただの木と化した秘密基地。しかし上を見上げればぽっかり開いた穴。
其処に住むのは俺、熱汐。これでも一応トレーナー兼バトル司会者。
今日は休日、常人ならどこかでバトルしているのであろう。
ただ俺は今風邪を引き、この前買った新しい毛布と敷布団の間で寝ている。
相当前にひいているが、なかなか治らない。
原因はわかってる、冬に対する免疫力の弱さだ。生来の。

けれど、咳は薬で今抑えている。俺にあるのは熱と気持ち悪さだけ。
熱はこの寒さにも関わらず熱く、気持ち悪さは…どういえばいいのかわかんない。

俺はこの二つの敵に何とか戦ってるものの、眠気がそれを邪魔する。
そして俺は睡魔に戦っている内に、まぶたを閉じてしまった。


気がつけば俺は見覚えのある街に居た。名前は知らないし、看板らしきものもなかった。
とりあえず、どんな街か俺は辺りを見回す。

右をみればポケモンバトルをしている公園。
左をみればフリーマーケットで買い物をしてる大人たち。
前をみれば自分のポケモン達ととかけていく子供達。
上をみれば白い雲で落書きされている空。
下をみれば…雨がふっていたのか、水溜りがある。
そこに写るのは、過去の俺。

茶色い染めたての髪に、黒い目。目と同じ色の衣服。ジーンズ。腰にはモンスターボール。
やっぱり過去の俺だ。

水溜りから、目を離すと俺は興味がある、ポケモンバトルの公園へと足を踏み入れる。
男女がミミロップとライチュウを戦わせている。どちらも一進一退の様で、お互い譲らない。白熱している。
どこかでこんな見応えのあるバトルを見た…というより体験した様な気があったが、思い出せなかった。

そして、俺は公園にきて5分後に公園を出た。早くしないとこの街を見られないから。
いや、この夢が終わってしまうから、なぜかそんな気がした。

次にフリーマーケットへと歩き出した。
理由などなく、ただ気が向いたから。いや、なんとなくか。
そんな事を考えつつ、人でごった返しているフリーマーケットへといった。

今日は休日なのだろうか、人が多くちょっと歩きづらい。
商品も人ごみのせいであまり見えない。あーあ、厄介なところにいっちまったなー…ため息を少し吐く。

すると誰かの頭にあたった。ごつんと音がすると次は痛みが走る。
誰だ?そう思って顔をみてみた。一見外見で男性かと思ったが女性であった。
珍しい黄土色の髪をしている。
「んもうー…;気をつけてよ!」
元気な明るい可愛らしい声だ。おてんばなのであろう。
しかしその声に俺は懐かしさも感じた気がした。
「あ、ああ…すまない;」
俺は謝った。痛みを我慢しつつ。
黄土色の髪の女性は俺の言葉をきくと、そのまま帰っていってしまった。
にしても何で懐かしい感じを覚えたのであろう?

しかし夢の中の俺の頭では思い出す事ができなかった。
とりあえず、俺はそのフリーマーケットをそのまま通っていく事にした。
この人ごみであれば戻ることなど不可能だから。


数分後、俺はフリーマーケットを抜けて花畑の前で深呼吸をする。気持ちいい。
頑張って人ごみを通った時の疲れも一瞬抜けた気がするほど気持ちいい。
そこに漂ってくる花の匂いもましてとても気持ちよかった。

花畑の前のアーチをくぐれば、鮮やかな色の花が咲き乱れている。
赤、黄、ピンク、水色、白…どれも素敵な花だった。
たくさんの野生ポケモン達も花の匂いに魅了され、昼寝をしているポケモンもいた。
とてものどかな風景だった。

誰がこの美しき花畑を育てているのかはわからない。
でも心が綺麗な女性、だと分かる。
こんな美しい花畑は心が綺麗でなければ花も綺麗に咲く事はない。
それに、女性なのは花に興味があるのは女性だという俺の考えからだった。

「この花を育てている女性は綺麗だろうなあ…。」
つい、呟く。俺の悪い癖だ、こういう妄想をするのは。
心は綺麗なのだろうが、外見はわからない。
でも俺は信じてみる。絶対に綺麗で華奢で器量よしで優しくて短髪で…。
まあ最後は違うけれども。
そういう考えを消して、俺はまた花畑を眺め様とした。

…が、俺のゆったりとした時間は此処で打ち破られた。
突然、花畑の前にある森から耳が痛むような爆撃音が聞こえてきたのだ。
爆撃音の後に次はポケモンたちの鳴く音、走る音、飛ぶ音がする。
それは聞いた事もないような大きな音だった。

その音が火蓋をきったのか次は木が緑から赤い火の色へと変わり始めた。
火のせいで熱風がやってきて冬とは思えぬ暑さが俺を襲う。
花は熱風のせいで、さっきまで保っていた生き生きした姿がもうなくなり始めている。
野生ポケモンの断末魔も聞こえる、銃声もかすかに。
逃げようと振り返ったときには人ごみは既にいなくなっていた。
逃げよう、本能が俺に告げる。
そして俺は走り出す。だが体力もなく走るのが苦手な俺は少し花畑を抜けるとへばってしまった。
それでも俺は逃げる。

なぜ?決まってるじゃないか。命がなくなっては困るから。

しばらく走っていくと銃声と人の断末魔がきこえた。
ポケモン同士が攻撃しあう音も聞こえる。バトルでもしているのだろうか。
フリーマーケットをみてみると、商品が元の形もなく崩れていた。
血の匂いがかすかにする。誰か殺されたのだろう、爆発音の主によって。


フリーマーケットを抜けると、そこにはバトルをしている人たちと…燃えている町があった。
また熱気だ、俺はふらりと倒れそうになるが何とか耐えている。
「リザードン、火炎放射!」
「ムウマージ、シャドーボール!」
そんなトレーナーの指示と音の主―赤い服を着ている奴ら―の声が俺の頭の上で飛び交っている。
俺が限界になってきたころ、女性の悲鳴とポケモンが倒れる音が聞こえた。
赤い服をきた奴はキュウコンに命令する。
キュウコンは指示通り紅色の炎を吐く。
女性はルクシオを抱いたまま逃れようとするが燃え盛る炎との挟み撃ちにあう。
俺は目を瞑った。怖い。消えるのが、死ぬのが。

そして再び目を開けた瞬間、赤い服をきたやつが俺の胸倉をつかんできた。
「…仲間になるかい?」
突然の問いを不気味で淡々とした声で女性は言う。
俺は首をふる体力などなかった。
けれども、言う体力もあまりない。
「……助けてあげるんだけどなあ?」
またもや女性の声がした。
さっきと打って変わって甘い誘惑の声。
俺はその言葉につい、脳がその言葉を食い止める前に、
「……な、る」
…いってしまった。
そして力尽きて其処から俺の意識は薄れていった…。


「・・・ん。」
夢から戻された俺はむっくりと起き上がる。
外を見れば、ムックルの群れが沈む太陽にむかって飛んでいるオレンジの風景。
どうやら眠っている間に夕方になってしまったらしい。

にしてもなぜ、あの夢を見たのだろう。
起き上がった後の思考はそれでいっぱいであった。
夢は過去の出来事を偶に、思い出させるものとは聞いた事はあるが…。
もしかしたら夢喰い?とも思ったが、近くの野生ポケモンに夢喰いなど覚えられるのはいない。
でもこの事を考えるのかを拒否するように、頭痛がやってくる。
次の事に思考を張り巡らそうと、俺は顔だけ外に出してみる。

もう既に夕陽は沈み、空は群青色に染まり、北風が髪をふわりと揺らした。
久しぶりに清清しい外の空気を吸うと、風邪という事でさえも消えてしまう。

そんな景色にみとれている間に、空は深い闇に包まれていき、月がでてくる。
空気も空と伴い、冷たさを増してきた。
そして俺は夢の事など忘れ、部屋の奥へと戻った。
さあて、今日のレシピはどうするかって考えながらね。