触れる炎  作:うみちゃ 投稿日時:11/1/6


「そういえばぁ」


突然ララバイが口を開いた。

「サルサの事渡しよく知らないのよねぇん。
いや、普段のじゃなくてここに来る前の話とか。」


そうか、サルサの過去を良く知っているのは私だけだった。
当たり前のように頭の本棚の一段を占拠して居たから特に気にもしなかった。

表紙だけは毎日のように見ているがその本を実際に手に取ったことは無い。
なぜなら私はその本が書かれるのを執筆者の隣でじっと見ていたのだから・・・。



そう、初めて出会った彼はまさに炎。

炎の化身。炎の権化。炎の精霊。炎の神。

あらゆる表現の仕方はあるが、どうしても違和感が残る。

彼を文字に表すには「炎」の一文字にはありえないだろう。

すべてを焼く炎。扱えないものには恐怖の対象でしかない炎。
触れたものは焼き、溶かす。後には何も残らない。





彼とであったのは・・・・そう、縄張り争い。
火鼬の一族と我ら夜の翼の一族の争いの時だ。


何も無い焼け野原の陽炎の中、たった2人が立っている。狂気的な幻想とも見える光景。

そう、最後の2人。私と彼。
名前など知らない。無い。ただの二つの自然の一部だった。

むせ返るような自然が焼け焦げる臭い。暑さ。

このままかえりはしない。


縄張り争い、と聞けばかわいく聞こえるが所詮は生き物同士の戦争を
人間が見下ろしてそう呼んでいるだけ。

理性と慈悲が人間よりも少ない分それはある意味残酷であり、自然な弱肉強食だった。


私は彼を組み伏せ、制圧する。三つの山と四つの谷を治めていたこの火鼬は抵抗しない。
まるで私の手にかかるのならば本望だとも言わんばかりに。




私はこいつの境遇を知っている。その力「炎帝の生まれ変わり」ともてはやされるも
力のあまり群れから追いやられ、戦いの時だけ借り出される悲しき王子。


炎は近づくものに温もりを与え、闇を照らす。
しかし触れようものならばたちまち炎は炎が望まずとも牙を向き、伸ばした手を黒く焦がす。



そう、私も――――――ーーーー








「なぜだ」


私は問うた


「なぜ、私なら良い。」







「なぜ、ここまでも抵抗し、」






「なぜ、私には」






彼はニヤリと笑うと答えた。


お前を待って居たのだ、と。




お前を待って居たのだ、と。
お前にかえされるために、今まで生きていたのだ、と。

太陽を月は時に隠す。お前はオレにとっての月だ。
太陽の光を浴びて輝く月は時に太陽に歯向かわなければいけない。
自然の・・・いや、宇宙の摂理が今こそ行われる時なのだ。


彼はそう語った。



「何を」



「何を言うか」




崖の上で私たちの様子を青い雷の一族の者が見ている。
この戦いの結果はおそらくこの山々に大きな影響を及ぼすだろう。





「貴様はこの戦いを自然の摂理だというか、私とお前が今殺し合いをしているというのに!
お前は何を言うか、お前が太陽だと?私が月だと?だれがいつ、お前の光を浴びて輝くようになったというのだ。
お前は己の朽ちる場所を探して勝手にオレの足元を選んだだけだ。お前はそれを正当化するために
己に太陽、オレに月という役柄を与えただけだ。太陽など居ない!
オレもお前も、名前などないただの星屑にすぎぬ!」


そうか。



彼はそう一言だけ言い、目を瞑った。


くだらない



くだらない。








なんとくだらないことか。
草も生えぬ氷の大地を奪い合い友と友が殺しあう。

手に入れた土地に住まうものはもう居らず、
そこには最後に残った一人の王が住まう。


なんと意味の無いことか。

これが自然の摂理ならば私は自然など壊そう。
誰が血の染み渡った赤い氷の地など欲しがろうか。



私はいつものように彼を鷲づかみにし空へと舞い上がる。


「なっ・・・・何しやがる!」


彼は叫んだ。



「お前を殺すのだ。くだらぬ意地を張った愚かな名も知らぬ火鼬をな!」


崖の上で見ている青い雷の者は微笑むと影の中へと消えていった。




「殺すなら殺せ!お前になら・・・・」


「ふん、だれが貴様の言うことなど聞くものか。今お前の命は私の手の中だ。
生かすも殺すも私の自由だ。本当に死にたいか体に問いかけてみろ。お前の本能は
何を望む、まだ子も作っておらぬ、メスを抱いてもおらぬ、世界も知らぬ、
夢も持たぬ、ろくな食い物も食ったことも無い。お前の体は、本能は何を望んでいる。
こんなとこで腐った自然の一部となるつもりか?お前はそんな生き物じゃないはずだ。
お前程度の炎、私は触れられるぞ。他の者のように近くに寄るだけ寄って温まって
使うときだけ使って使わぬときは消してしまう他の者とは違うぞ。」

「危なき時は背を合わせよう。寄り添う時は寄り添おう。
お前が凍える時は私がお前の炎となろう。友よ、世界は広いぞ。
翼を持つ私は知っている。こんな山々の中に本物の星など無い。
お前が知らぬ世界を私が見せてやろう。だからその手を差し出せ。」

「そんな言葉当てになんねぇ。証明できるのか?嘘じゃねぇって。
言葉でならいくらでも並べられる。それが表面だけのメッキじゃねぇって証明できるのか?!」

「証明して欲しいならば二度と私に命令するな。私の友となれ。
私と友に今日を進め。明日に怯えるな。過去に生きるな。」

彼は黙りこくる。

そして少しの間沈黙があり、その沈黙を破ったのも彼だった。

「口ばっかりはうめぇな・・・・」


燃え盛る炎は自分の意思で雨を降らし、今、燻ぶる火種へと戻った。
マグマのごとき熱は蓄えたままで。

何故なら彼は初めて薪というものを知ったのだ。
あふれだす黒水をひたすら燃やすことでしか保つことはかなわない、と
そう考えていたその炎は、その熱に耐える薪を手に入れたことで
薪が燃え尽きるまで自身も燃え続けることが出来ると知ったのだ。



「そうか、」



「やはりここにあったのか」














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「クーラント?」


ララバイが私の顔を覗き込んでいる。


「なぁにぼーっとしてるのよ。マンガで良くある回想でもしてたのぉん?」



「ん・・・・まぁそんな所だな。」




彼と私しか知らない秘密の物語第一巻『さわれるひ』


続きはまた今度読むとしよう・・・。