あおいとり  作:ざね 投稿日時:11/1/23


「お兄さん、聞いてください、お兄さん」

硝子瓶の中の青い羽根に向かい、彼女は語りかけた。

「今日ね、今日、長老さまが、褒めてくれました」

青い羽根は何も返さない。
何故なら、それはただの青い羽根なのだから。

「お兄さん、私、いつか、一人前になれますか。いつか、いつか、」

それでも、彼女は語りかけ続けていた。





───私とお兄さんは、異性一卵性双生児でしたね。
一卵性で性別の違うきょうだいが生まれることは、極めて珍しいです。
でも、私とお兄さんは、異性一卵性双生児でしたね。

お兄さんは、お母さんのお腹の中で、私のことを半分食べてしまいましたね。
難しいことはわかりません。でも、お父さんがそう言っていましたよ。
身体ではありません。能力を、食べてしまいました。
だから、お兄さんはとても優秀でしたね。
将来、オワゾー族の長となるのでは。そう噂される程、優秀でした。
でも、そのお兄さんは、今はもうお空にいます。
鳥人類であるオワゾー族がお空にいるのは、当たり前ですけど。
でも、お兄さんは、その空よりもっともっと高い空にいるんですよね。
気付いたら、そうなっていましたね。
私は、半人前のまま、こうして生きています。
もしかしたら、お兄さんが半分食べてしまったから、私は一生半人前なのかもしれません。
お兄さんがいなくなる前に、私の残りの能力をあげられたら良かったのに。
いえ、むしろ、生まれる前から、私の力が全てお兄さんのものになれば良かったのに。
そう思った事は、何度もありましたよ。何度も、何度も。
でも、それは駄目だよって、言われました。
あ、誰に"そう"言われたか、知りたいですか?───





「レイチェル!」

聞き慣れた声が響いた。

「あ、零」

彼女は翼を広げ、部屋の窓から飛び出した。

「いらっしゃい、零、いらっしゃい」

家の扉の前に立つ彼は、苦笑いを浮かべた。

「ドアから出て来れば良いのに」

「こっちの方が、早いの。こっちの方が、ちょっと、結構、早いの」

休養の為に、他世界のこの家を訪れた青年。銀色の髪に、海のように深い碧眼の青年。

「零、上がって。零が好きなハーブティー、用意してるよ。好きでしょ?」

───彼が、私に"そう"言いました。

「うん、ありがとう」

───霧の中で出会った彼が、私に"そう"言いました。

「お父さんもお母さんも、お出かけしてるの。お出かけ、してる」

───彼も、一卵性双生児だそうです。

「留守番なんだね」

───私は、オワゾー族のロワゾーブルー。意味は、あおいとり。

「そう、お留守番。いい子にしてる、お留守番。いい子にしてるの」

───彼は、ファーディナンド家の禍罪の人間。家系図から消された、元王子様。

「お留守番中に勝手に人を呼ぶなんて、本当にいい子なのかな」

───生きる世界や立場は全く違う。でも、どこか似ている私達。

「え、えっと、私、悪い子?えっと、悪い子なの?」

───彼の右目は碧くて、私の翼も青い。
  お兄さんが半分食べちゃったから、私の翼は半分白いけど。

「嘘だよ、嘘」

───あおはとても綺麗な色です。

「もう、零、意地悪だよね。知ってたけど、もう、意地悪だよね!」

───だから、私は、その色を守りたいです。

「ごめんって」

「謝った。謝ったから、許してあげる。謝ったから、仕方なくなんだよ」

「うん。ありがとう、レイチェル」

───お兄さん。私、半人前だけど、





  いつか、お兄さんみたいに、強くなります。

  いつか、いつか、お兄さんみたいに。そう、いつか、きっと。───