朝焼けの彼方へ・・・・  作:うみちゃ 投稿日時:11/11/11


ーーーーーホープ、ついに私たちにも自由が与えられたのですね。


ーーーーいや、それは違うな。

ーーーーーー?




ーーーーーーー自由を使うことが出来る世界が広がったんだ。自由でなければこんなことは出来ない。



燃える森を背にオレ達はお互いの目を、すすに汚れた顔を、傷ついて内部構造がむき出しになった体を、見つめ合った。

いつともわからない、これから永遠に流れていく時間の中での再開の時まで
命運を共にすると誓い合い、今日この日、この時、この瞬間まで戦い続けてきたその仲間の姿を忘れないために。




「さて、これからどうしますか。」


ヨルノズクが誰に宛てるわけでもなくつぶやく。


「なんでもいい。とにかく、俺達は自由の本当の意味をこれから知らなくちゃいけねぇんだ。」


ヨルノズクの落とした言葉を拾ったボーマンダが返す。


「とにかくここに」


ボーマンダの言葉を受け取ったヨルノズクが何かをいおうとしたが、それを遮ってリザードンが話し始める。




「空間転移装置がある。こいつを使えばここじゃない世界にも行くことが出来る。
空間座標データは研究所と一緒にぶっ飛ばしちまったが、こいつはまだ使える。
どこに着くかはまさに運試しだがな。とりあえず人間が住める世界に飛べるようには出来てるみたいだぜ。」



それを聞いた後にフライゴンが前に出る。それに続いてカイリューも一歩前に出る。


「わたし達はどちらにしろそれを使わなくちゃいけないのよね。」


フライゴンがリザードンに問う。その質問にリザードンはフライゴンの目を見据えて深く頷く。




「オズ、早く取り戻すんだぞ。」

リザードンはカイリューの元へ寄ると胸元を握りこぶしでコツン、と叩く。
そんなリザードンをカイリューはただ宝石のような瞳で見据えるだけだった。



「ホープ、お前はどうする。この機械は誰かが操作しなくちゃいけないんだろう。」

機械を一瞥したリザードンにボーマンダが話しかける。ボーマンダはその鋭い眼差しでリザードンを見据えた。



「・・・・そんな目で見るな。これはオレが言い出した話だ。自分が始めた物は自分で幕を引く。」

「それは違いますね。」

ヨルノズクが間髪居れずに口を開いた。

「ここから、始まるんです。全てが。"私たちの"物語の幕をあなたが開くんでしょう?
わたし達はこれから空間を越えて離れ離れになっても、一つの物語としてつながっているんです。




堅物がたまにはいいこというじゃねぇか、とボーマンダがにやりと笑う。
それを聞いたフライゴンはやさしく微笑んで頷く。その右手にカイリューの左手を強く握って。



「ありがちな台詞になってしまいますが・・・・・」



おそらく、私たちを待っている道はそれはそれは長く、誰も通ったことの無い
険しいとも易しいとも知れぬ、未開の道でしょう。

・・・・その道の先にあるのが見慣れた町並みなのか、静かな森なのか。
それとも不毛の荒野なのか、海の先の孤島なのか、はたして今は見当もつきません。

ただ、私たち自身が定めなければ永遠に道は続いていくのです。
その選択権が自分にあること・・・・・それが、それこそが自由なのだと私は思うのです。



ヨルノズクは静かな口調で語った。

いつもなら説教くさい、黙れ。と悪態をつくボーマンダでさえ静かに聞き入った。
それは何よりこの場の、序章の締めくくりに相応しい言葉であったからだろう。




「・・・・・なんだかな、結局こういうところはお前が持ってくんだな。」


「ビショップ、お前には世話になった。初めのオレの態度をどうか許してくれ・・・・・。」



「ホープ、そんなことを言わないでください。あなたが居たからこそ
私達は私たちとして生まれ、こうして生きていけるようになったのですから・・・・」




まいったな、と頭を掻くリザードン。空は白んできている。



「よう、そろそろ時間だぜ。じきに夜が明ける。昼間になったらホープも動きづらい事だし
そろそろお開きって事にしねぇか?どうせまたどっかで会えるんだろう?」

「ノック・・・あなた簡単に言うけど・・・・・」

言いかけた言葉をフライゴンは飲み込んだ。

ボーマンダの荒い笑顔がなんとなくそれを予感させたのだ。




「さあ、ステラ、オズ。まずはお前らだ。」

リザードンはフライゴンに言った。その言葉にフライゴンは行動で答える。

オズ、行きましょ。





ーーーーーいいか、ステラ、オズの手を絶対に何があっても手を離すんじゃないぞ。


ーーーーーーオズ、私の手を握って。絶対に良いって言うまで離さないでね。


ーーーーーーー了解。



多少火花は散ったが、おそらく成功なのだろう。
その場所から二人の姿は消えていた。




「さて、次はどっちだ?」


リザードンは動力線と空間転移装置の動力供給線を素手でくっつけたまま残った二人に言う。


あたりに装置の発する鈴虫が鳴くような、静かな音が鳴り響く。



ボーマンダとヨルノズクは顔を見合わせると言葉を発するわけでもなく数秒見つめあう。
そして何か会話がされたかのようにヨルノズクが前へと出る。




ーーーーーーーーホープ、改めてお礼を言わせてください。


ーーーーーーーーよしてくれ、例を言うのは俺のほうだ。お前がいなけりゃ・・・・



ーーーーーーーふふふ、それじゃあお相子ということで。



笑顔を残して、ヨルノズクは目の前から居なくなった。





「さて、それじゃあ最後はお前だな。ノック。」


「・・・・・ホープ、オレがここに残ったっていいんだぞ。やり方を教えてくれりゃあオレだって・・・」


いいんだ、オレで。オレはここに残る必要があるんだ。



それ以上ボーマンダは何も言わなかった。

お互い、なぜリザードンがそこに残る必要があるのかなんてわからなかった。





ーーーーーーなぁ、ホープ

ーーーーーーなんだ


ーーーーーーいや、次会うときにしよう





そして、森の中には一人を残して誰も居なくなった。

ふぅ、とため息を一つつくと彼は手に持っていた配線を放り投げ、その場を立ち去ろうとする。



しかし、ふと思い出したように装置の元へと戻ると乱暴に蹴っ飛ばし、装置をぐちゃぐちゃに破壊した。







ーーーーーーこれでいいんだ。オレの仕事はこれで終わりだ。願わくばあいつらが幸せに暮らしてくれりゃあ・・・・・













燃える森の中を吹き抜ける空から降りてきた風は熱を帯びた中にも涼しさが混ざり、なんとも心地よく感じた。
その風が頬を撫でる度にリザードンは旅立ちの意味を考え、そして何度も改めなおすのだった。


午前4:35分、まもなく日は昇り世界を照らし出すだろう。
一つの物が壊れ、影が一つ減ったはずの世界に新たな影が一つ。

その影を成すのは重なり合った強い意志の姿だ。