四 ハピナスの珠の枝


 もう一人の皇子・エーフィは策略にたける者であった。
知り合いなどには「旅行に行く」と言って暇をとり、
一方でかぐや姫の家には「宝物を取りに行く」と伝えておいた。
その宝物とは『ハピナスの珠の枝』。かぐや姫の話では、
「東の海に、ハピナスがたくさんいる島があると言います。
そこには銀の根、金の茎、真珠の実を持つ木があるそうです。
その木を見つけて、枝を一本折ってきて欲しいのです」
とのこと。
エーフィは「ごく内密に」と言うことで、わずかな家来を連れて出かけた。


 東へやってきたエーフィ。
「きれいな海だな……」
しかし、その海へ出ようとはしなかった。
 エーフィはまず村のはずれに小さな家を造らせた。
そして当時評判が高かった鍛冶職人達を呼び、全員で家にこもった。
「何をするおつもりなのでしょうか?」
家来のひとり、スリープは首をかしげる。エーフィは余裕の表情を浮かべた。
「金の茎に真珠の枝……簡単じゃないか」
「時間はかかりますがいいですか?」
「かまわないよ。材料はこっちで用意してあるから、君たちは作ることだけに集中すればいい」
「わかりました」
職人はすぐに仕事に取りかかった。
(なるほど、そういうことですか。でもかぐや姫に嫌われても知りませんよ)
もう1人の家来……ケーシィには、これから主人がやろうとしていることがすぐに分かった。
そしてテレパシーで警告したが、エーフィは無視した。
もうお分かりの人もいるだろう。職人達に枝を作らせるつもりなのだ。


 何ヶ月もして枝が完成すると、エーフィはこっそり枝を持って家を出た。
海から帰ってきたように見せかけ、「疲れた」と言ってその村にとどまり、少ししてから自分の屋敷に戻った。
 エーフィが枝を持ち帰ったといううわさを聞いたかぐや姫は
「私はこの人に負けてしまうのか」
と、胸がつぶれる思いでいた。


 こうしているうちに、エーフィは姫の家にやってきた。それも旅の時の荷物を持って。
「命を投げ出して、例の枝を持ってきました。かぐや姫に会わせてください」
翁は枝を姫に差し出すと言った。
「彼は約束通り枝を持ってきました。あれは間違いなく本物です。これ以上言い逃れはできますまい。
 彼は旅姿のまま、自分の家にも寄らずに来ました。早く彼の元へ行きなさい」
かぐや姫はひどく嘆かわしそうな様子でいる。
「今さらダメなんて言わせませんよ」
エーフィは家の中に上がろうとしている。翁は婿を迎える支度をはじめた。
「本当に大変だったんですよ」
苦労話を聞かせるエーフィ。


 「……そう、そこには銀のお椀を持ったハピナスがいたのです。
 七色に輝く川の水をくんで、どこかへ運んでいました。
 その後をついていくと、そこにはまさしくあの枝をつけた木があった……」
その苦労話も本物に思えてしまう。かぐや姫がもうここまでかと思ったその時。
「ちょっと待った!!」
「!?」
 姫、翁、皇子が同時に振り返ると、そこには見覚えのない者達が立っていた。
かぐや姫がエーフィを見ると、彼の顔は青ざめている。
リーダーらしいフシギダネが口を開いた。
「私たちはこの人の仰せ通り、玉の枝を作りました。でもこの人、私たちに報酬を払おうとしないんです!」
「何ヶ月も家にこもって、一生懸命に作ったのに!」
「何だって!?」
サンドがそれに続く。翁は仰天した。
「証拠ならここにあります。契約内容を書き留めておいたのです」
(何ともまめな……)
(だからやめろと言ったのに……)
チコリータが巻物を近くにいた媼に手渡した。エーフィの家来達はあきれている。
 《制作依頼書・蓬莱の珠の枝
  皇子の妻となられるかぐや姫のご所望の品。
  完成の際には報酬(金額は非常に高かった)及び官位を与える》
そんなことが書いてあったのを、媼は正直に読み上げた。
「こうとまでかかれたら、普通はちゃんと払うものでしょう。それなのに何故払おうとしないのですか」
チコリータはきっぱりと言った。それを聞いたかぐや姫はすっかり上機嫌だ。
「本物と思っていたのに、とんでもない嘘だったのですね。ならばこれはお返しします。
 それと報酬は私が払います。あなた方は真実を教えてくださいましたから、そのお礼です」
「はっきり偽物と分かった以上はもちろん返しますよ」
かぐや姫の言葉に翁も頷く。職人達は辺りを見回した。
「あれ? あの大嘘つきはどこへ行ったんだ?」


 たくさんの褒美をもらい、帰っていく途中の職人達。
「いや〜、こんなにたくさんの物がもらえるとは」
「やっぱり正直に言うっていいことだね」
「ん? あそこにいるのは……」
道の途中に、エーフィが待ちかまえていた。
「お前達……よくも恥をかかせてくれたな……」
そう言いつつ念力で大木を持ち上げ、職人達に投げつけてきた。
「!!」
このままでは全員潰されてしまう!
「危ない!!」
間一髪、職人の1人のワンリキーが木を受け止める。彼はそのまま木をエーフィに送り返した。
「でやぁぁぁぁっっっ!!」
「えっ、なんで? どうして?」
慌てているため念力も使えず、エーフィは木と一緒に吹っ飛ばされた。
「うわあああぁぁぁぁーーーーーー……」
「よく飛ぶな。いい気味だよ」
エーフィが空高く飛び、お星様になってしまうまで大した時間はかからなかった。


……エーフィ、戦闘不能……


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