右大臣ブースターに言いつけられた品は、『マグマラシの皮衣』。
毛皮と言うよりは、毛から織った布のことである。
マグマラシの毛皮は絶対に燃えないため、炎に弱いポケモン達がのどから手が出るほど欲しがっているという。
まずブースターは、家来のガーディに皮衣を探しに行かせた。
ガーディは遠いところの仲間とも連絡を取り合い、必死に探したが見つけられなかった。
「やはり実在などしないのか……?」
ブースターは考えたあげく、一つの作戦を思い付いた。
「ないなら自分で作ればいいじゃないか」
偽物ではなく、自分でマグマラシを捕まえて作るつもりらしい。
彼は早速出かけた。仕事をさぼるのも何なので、休暇を取って。
マグマラシを見つけるのは容易なことではなかった。
まず、数が少ない。放っておけばバクフーンに進化するからだ。
それに見つけてもすぐに逃げようとするため、見失ってばかりだった。
「もうそろそろあきらめた方が……」
家来のロコンが心配そうにブースターの顔を見つめる。
しかしブースターは決してあきらめようとはしない。
この執念……いや、やる気こそが彼が右大臣にまでなった最大の要因なのだが、
さすがに今回はあきらめた方がいいのではないか。ロコンはそう思った。
「もう夕方だし……マグマラシも家に帰る頃では……ん?」
ガーディが何かを見つけたようだ。
「あれを見てください……切り株の上で昼寝しているのは……」
それはマグマラシではなく、進化前のヒノアラシだった。
「まあ、あれでもいいだろう。育てればそのうち進化するし」
作戦変更。ヒノアラシは眠っているため、忍び寄る影に気づかない。
捕まえるなら今のうち。
「うーーん……よく寝たぁ……」
ヒノアラシは大きなあくびをすると、のろのろと歩き出した。目指すは少し離れたところにある自分の巣。
しばらく歩いていると、ヒノアラシは背後の気配に気がついた。
「誰かいるの……?」
しかし振り返っても誰もいない。
ちょうどその頃、ヒノアラシの巣穴の近くを1匹のヒトカゲが通りかかった。
久しぶりに友達を訪ねようと考えたヒトカゲは、巣に近づいた。
どどどど…………
誰かが走ってこっちに来るらしく、地響きがする。
ヒトカゲはびっくりして木の陰に隠れた。
「わーっ、誰か助けて!!」
「待てぇっ!!」
聞き覚えのない声とともにヒノアラシが巣に飛び込み、続いてその入り口に3匹のポケモンが立った。
そうだ。確か「怪しい奴がうろついているので注意しろ」という噂がこの近辺に広まっていたんだ。
それが彼らのことだとすると……
「ヒノアラシが危ない!」
ヒトカゲは慌てて助けを求めに走っていった。
「これでお前は袋のネズミ……おとなしく出てくるんだな」
ブースターは偉そうに(実際身分は高いが)言い放った。
ヒノアラシを捕まえてさっさと進化させれば、かぐや姫は自分のもの。あと少しで目的が達成されるのだ。
「でも……ヒノアラシがかわいそう」
「わざわざ毛をむしるためだけに進化させるなんて……」
家来達は既にやる気を失い、いやいやついてきたといった感じだった。
それどころかヒノアラシの方に同情しはじめている。
「いたぞ!! あいつだ!!」
「な……何だ?」
ブースターが振り返ると、いつのまにか大勢のポケモンに取り囲まれていた。
ヒトカゲが森じゅうの仲間を呼んできたのだ。
「行くぞ! ヒノアラシをさらおうとする輩を追い出せ!」
リングマの合図で、全員が一斉に攻撃を始めた。
火炎放射、ソーラービーム、電磁砲、破壊光線……
強力な攻撃をいっぺんに食らったら、一撃で倒れるのは間違いない。
どごーーーーん!!!…………
「!?」
大きな爆発が起き、同時にブースターが消えた。
「ふう……何とか助かった」
ブースターは爆発が起きる直前、ヒノアラシの巣に飛び込んだため無事だった。
しかし巣の主はここにはいなかった。
「あいつ一体どこに……ああっ!?」
よく見ると巣の奥にもう一つの通路……抜け道が造ってあった。
閉じこめたつもりが、とっくに逃げられていたのだ。
仕方なく引き返そうとすると、自分の入った入り口がない。先程の爆発でふさがれたようだ。
「しょうがない、この抜け道を使うか……」
土まみれになって狭い通路を進むブースター。
「こんなに汚れるのは慣れてないんだよ」
あともう少しで出口というところで悪夢は突然訪れた。
「痛い! お前達一体何をやってるんだ!!」
「ごめんなさい、ご主人様! ……でも、弱いものいじめをする人に仕えるのは……もう嫌気がさして……」
ガーディとロコンが上から土をかけてきたのだ。
家来に裏切られたブースターはそのまま生き埋めになってしまった。
「これ……どうします?」
ガーディ、ロコン、ヒノアラシ、ヒトカゲ、その他の森の住人達は埋められた穴を見つめていた。
土は全く変化を見せない。つまり、ブースターは当分出てきそうにない。
「放っておくしかないと思う」
「僕たちにとっては一応この人に仕えている身だし……一緒に住んでたし……」
「こんな奴とひとつ屋根の下にいる必要なんてないさ。この森で一緒に暮らそうよ」
「いいの?」
「仲間が増えるのはいいことだもんね」
こうして森の仲間が2匹増えた。
数時間後に穴から脱出したブースターは、穴の横に1枚の布が置かれているのに気がついた。
家来達が自分のために皮衣を用意したのだろう、やはり見捨てられたわけではなかったのだと思い、
ブースターは布を持ってかぐや姫の家に行った。
翁は土が付いたままの姿のブースターを見て、相当苦労したのだろうと思った。
しかしかぐや姫はこう言った。
「それが本物なら絶対に燃えないはず。試しにあなたが火をつけてくださる?」
ブースターは言われた通り布に火の粉を浴びせた。
すると布はめらめらと焼け、灰になってしまった。
ブースターは青ざめて帰っていった。布も仲間も姫も、すべて失ったからだ。
……ブースター、戦闘不能……