七 ピジョットの宝貝


 「ピジョットの宝貝」とはあるピジョットが巣の中に隠し持つという白い貝で、それを手にしたものは栄華を極めるという伝説があった。
宝貝を持つ「あるピジョット」が何なのかは諸説があり、その中に
「(ポッポやピジョン達の)大きな群れのリーダー」
をさすというのがあった。
権力の象徴だけに他のポケモンには渡そうとはしないのだ、というのである。
これに中納言サンダースは目をつけた。
彼の家の近く、ウバメの森に群れがいるのを知っていたからだ。


 真昼でも薄暗い森の中にある目的の集落に、サンダースと家来達はたどり着いた。
まだ明るい時間だったので、道に迷うことはなかった。
辺りを見回すとどの木にも多くの「鳥の巣」が掛けてある。
どうやら巣の主はすべて留守のようだ。
「しかし……ピジョットの巣は一体どれなんでしょうかねぇ?」
デンリュウがサンダースに尋ねた。
数え切れないほど巣があるうえ、3種類のポケモンの巣は見分けがつかない。
かといって全部を調べるには時間がかかりすぎる。
「とりあえず大きいものを探してみましょうか」
エレブーが提案すると、サンダースは「いい考えだ」と頷いた。
ピジョットは体が大きいため、巣も大きいのを作っていると考えたのだ。
3匹は木に登り、大きめの巣を見つけたら中を覗くことにした。


 数時間後。
「ダメです……どれもほとんど同じ大きさで……」
木の下でぐったりしている3匹がいた。
リーダーの巣を悟られないようにするためか、それとも進化のことを考えてか、巣はどれも同じ大きさだったのだ。
つまり作戦は見事に失敗。気がつけば日は既に西に傾いているようだ。

  ざざざざざざざざざ……

「ん? 何だあの音は?」
デンリュウが突然そんなことを言った。
その直後、彼の言った「あの音」が近づいてきた。
それはおびただしい数の鳥の羽ばたき……ピジョット達が戻ってきたのだ。
「よく見ろ、これなら確実にピジョットの巣の場所が分かる……」
巣の周りを飛び交うポッポ達のおかげで正確な位置は見失ったものの、どの木かというのは分かった。
これだけでも負担はずっと軽くなる。
「さあ、これから探しに……」
「ちょっと待ってください。彼らに気づかれたら大変なことになります」
木に登ろうとしたサンダースをエレブーが止めた。
鳥はもちろん鳥目なので夜は周りがほとんど見えない。
しかし、すぐそばの相手なら話は別。降参するまでひたすらつつき続けるだろう。
そう説明すると、サンダースはおとなしくなった。
 そして3匹は問題の木の下で夜を明かした。


  ばさばさばさばさばさばさばさ…………

 翌朝、3匹は昨日以上の音量の羽ばたきで目を覚ました。
群れの最後の1羽が飛び立つのを見送った後、サンダースは家来達に待機するよう言いつけ、目的の木に飛びついた。
そして文字通りの「電光石火」で上の方まで登ると、手当たり次第に巣の中を探った。
すると巣の1つに、白い何かの破片が入っているのを見つけた。
「間違いない、これは宝貝の破片だ」
破片をつかんだサンダースは有頂天になり……
「ご主人様、気をつけてください……ああっ!!」
枝から足を踏み外した。
「うわあっ!!」

  どしーん……

 サンダースは木から落ち、着地と同時に足に激痛が走った。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……それより宝貝を見つけたんだ。これをかぐや姫の元へ……」
「でもケガをしているじゃないですか」
「これぐらい平気……痛っ!」
「ほら、やっぱり無茶しない方がいいですって」
 ケガは相当ひどいらしい。


 サンダースはケガをした足を引きずってかぐや姫の家へやってきた。
心配しながらついてきた2匹はかぐや姫に訴えた。
「この人は無理をしてまで来たんです。どうか……」
「宝貝が本物でなければ私は認めません」
「そうではなく、彼に治療に専念するよう言って欲しいのです」
「……え? 治療?」
自分のためにサンダースがケガをしたことを知ったかぐや姫は驚いた。
そしてしばらく考えてからこう言った。
「わかりました。私が彼をおとなしくさせますから、あなた方は医者の元へ連れて行って下さい」
「……はい」
 かぐや姫の提案に2匹が賛同すると、かぐや姫はサンダース以外を別室に下げた。
そして息を大きく吸うと、美貌とともに評判の声で歌い始めた。
サンダースは姫の歌を夢中になって聴いていたが、しばらくすると眠ってしまった。
 歌い終わってかぐや姫に呼び出された家来達は、主人を背負って出ていった。


 眠っているサンダースを医者の元へ連れて行く途中の2匹は、主人の元々の目的を思い出した。
「ところで宝貝は渡したのか?」
「渡そうと思ったけどやめておいた」
「どうしてだ? ケガをしてまで取ってきたものを」
「いや……あれってどう見てもタマタマの殻の破片にしか見えないから……」
「それ、どう説明するつもりなんだ?」
「まだ考えてない……どうしよう?」
 遠出と苦労は無駄だったようだ。


……サンダース、戦闘不能……


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