八 帝と姫


 さて、エンジュの都に住む時の帝−ホウオウは、息子のブラッキーとエーフィの様子がおかしいのに気がついた。
 ブラッキーはいるはずのないバンギラスの影におびえていた。
彼と共に出かけた者に事情を聞こうとしたが、彼らもまた幻覚に苦しんでいた。
 エーフィは自宅の中庭で大木の下敷きになっているのを発見された。
このあたりにはないはずの種類の木であったため、家中の者が首をかしげた。
 帝は側近をすべて呼び集め、原因を調べさせようとした。ところが2人足りない。
なんでも大納言(シャワーズ)は病に倒れ、中納言(サンダース)はケガのため静養中だという。
 帝は右大臣のブースターを呼んで言った。
「私は先日、お前が土で汚れた体で歩いているのを偶然見かけて、不思議に思っていた。
 一体何があったのかを私に話してくれないだろうか?」
布を燃やされ、よろよろと戻ってきた時の姿をいつの間に見られたのだろう。
右大臣はかぐや姫に出会ったこと、自分に科された難題のことをできるだけ細かく話した。


 帝は貴公子達が身を滅ぼしてまでも思い続ける姫君に興味を持った。
彼女がどんな者であるかをもっとよく知りたいと思ったので、自分に使える女官を使いとして送った。
 翁の家では恐縮して使いを招き入れた。使いは
「帝のお言葉に、かぐや姫の容姿がとても美しいというのでよく見て参るようにとの旨を仰せになったので参上しました」
と言ったので、翁は「分かりました」と答えてかぐや姫の元へ行き、使いに会うよう言った。
かぐや姫は
「私はよい器量でもありません。どうしてお目にかかれましょう」
と断ったが、翁も
「相手は帝の使いです。どうして従わないことができましょう」
と反論する。
「たとえ帝のお言葉であっても、私は恐れ多いとも思えません」
かぐや姫はいつにも増して冷たい。いっこうに会おうとしないため、翁は仕方なく使いの元に戻り、
「残念なことに、あの子は強情者でございまして、お会いしそうにありません」
と言った。
「必ず見てから帰れ、と言われたのですが……しかし、なぜ姫は帝のお言葉に従わないのでしょうか?」
使いの言葉に翁は黙ってしまった。


 結局かぐや姫に会わないまま戻ってきた使いに、帝は尋ねた。
「なぜ会わなかったのか」
「向こうが会おうとしないのです」
しかし貴公子達の時と同じように、帝は姫のことを諦めきれなかった。
「それでは姫の親である翁を呼んできなさい」
帝は再び女官を行かせ、翁を連れてこさせた。直接会うことになるとは、と翁は慌てた。
「私は使いを出したのに姫には対面せずになってしまった。こんな不都合なことを見逃してよいものか」
「あの子に宮仕えをする気はなさそうで持て余しております。でも何とか説得してみましょう」
この「説得」という言葉を聞いて、帝は怒ったような声でこう言った。
「どうしてお前が育てた娘なのに言うことを聞かないのか。姫を連れてきたらお前にも官位を与えよう」
 翁は喜んで家に帰ったが、かぐや姫は相変わらず断り続けた。
宮仕えに行くくらいなら死ぬとまで言い出すかぐや姫に翁は困り果てた。


 ついに帝は自分から姫に会いに行くことにした。
翁には日程を伝えたが、かぐや姫には言わないようにとも伝えた。
油断しているところを訪ねれば会ってくれるだろうと思ったのだ。
 そして当日、帝は翁の家にやってきた。
かぐや姫の部屋を覗こうとすると……
「何だ……この部屋は……?」
部屋中が光で満たされていた。
光を発している姫の手を取り、帝は姫を連れて行こうとした。
するとますます光が強くなり、帝は眩しくて目を開けることもできなくなった。
「わ、分かった、私の負けだ! 連れて行くのはやめるからせめて普段の姿を見せてくれないか」
帝がそう頼むと光はおさまった。
 帝がやっと目にしたかぐや姫は、一度目を合わせるとすぐにそっぽを向いてしまった。
しかし帝はそんな礼儀知らずの行為を気にしなかった。
かぐや姫は確かに美しい。宮殿にいるどの女官よりもずっと美しい。そして、ただのポケモンではない。
帝は残念に思いながらも帰っていった。
そして美しい花を添えた手紙を何度も送った。
かぐや姫からも返事が来るので、帝はそれだけでも満足だった。


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