十 シロガネ山


 媼と翁はかぐや姫が行ってしまってからも、ずっと泣いていた。
かぐや姫の残した手紙を見ても、
「何のためにこれから生きろというのか。誰のためにというのか。もう何もいらない」
と言って嘆き続けた。
 彼らは何日もその調子で、食事ものどを通らず、ついに床に伏したまま起きあがれなくなるほどに弱ってしまった。


 役目を一応終えた兵達は都へ戻り、宮殿に残っていた帝に一部始終を話した。
かぐや姫から薬を預かっていた兵(帝の代理でリーダーを務めた)が進み出て、薬と手紙を帝に差し出した。
「そうか……やはりだめだったか……」
 手紙を読んだ帝は悲しみにくれ、誰が何を言っても聞き入れなかった。
帝は定期的に音楽会を開いていたのだが、それもしばらく中止になった。


 貴公子5匹は手紙を持って集まった。
手紙にはだいたい似たようなことが書かれていた。その内容は、
宝物を取りに行く際関わったポケモン達と仲良くすること、
翁夫婦にもしもの事があったら助けてやって欲しい、
などということだった。
彼らは翁達が病に倒れたことを知り、早速見舞いに行った。
 その後、宝物に関わったすべての者を集め、再び話し合った。
「他に頼る者がいない夫婦の面倒を見られるのは、僕たちしかいない」
「ここは姫の願い通り助けてあげよう」
「家に閉じこもっているのもよくないと思う。たまには森のいい空気を吸わせてあげようよ」
「いいねそれ。いっそのこと森に引っ越してもらうとか」
「海でもいいんじゃない?」
「そういえば竹取の仕事はどうするんだろう?」
「跡を継ぐ人がいないね。あの人の竹細工って結構好きだったんだけど」
「……確かに今の代で終わりになるのは寂しい。それもなんとかしないと」
 様々な意見が飛び交った。
そして2匹の病が治っても、全員(洞窟を守るハクリューを除いて)が交代で面倒を見ることになった。
時々2匹を自分たちの家に呼んだりもした。


 さて、帝は側近を集め、
「どの山が天に近いか」
と聞いた。するとある者が
「都の東の方にある山が、この都からも近く、天も近いと思われます」
と答えた。
帝は身支度をして、かぐや姫からもらった不死の薬と手紙を持ち、兵を大勢連れてその山に登った。
 山の頂上に着いたとき、帝は
「もうかぐや姫に2度と会えないのに、長生きして何になる」
と言って薬と手紙に火をつけさせた。帝はその火をずっと見つめていた。
 白銀色の薬を焼いたためか、その山はシロガネ山と呼ばれるようになった。
 薬を焼いたその煙は、いまだ雲の中へ立ち昇っていると伝えられている。



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